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「はぁ、もう。それでどうするかね?」
「どうする? ですか?」
「そうだ。もし望むのであれば魔女様にお伺いをたてて就職先を探していただくが」
みんながゴクリと喉を鳴らした。
10歳になったらどこかに弟子入りをして仕事の見習いを始めるのが世の習い。それで家の仕事を継いだり、知り合いのところで勉強を始めたりするのが一般的。けれども身寄りがないとか様々な理由で就職先が見つからない時、魔女様にその能力や性質から適する職場をご紹介頂くことができた。
なお、うちは農家だった。
「ラヴィ。お前は、なんというか、農家は向かない気はするよ」
「母さん……」
「いつか畑に変なものを入れて妙な味を作ろうとしそうで怖い」
「兄さん酷い」
でも確かに僕は抑えきれない思いがあった。
「世の中に出てもっといろんな物を食べたいです。だから魔女様に」
頭を叩かれた。解せぬ。
「本当によいのかね? 魔女様はよい就職先を探して頂けるだろうが、お伺いする以上よほどの理由がなければ変更はきかぬ。どんなところであっても」
「構いません」
僕は大きく頷いた。なんとなく。
そうすると神父様は、はぁ、とため息をついて魔女様に祈り始め、やがて教会の中心に設置された水晶玉にぽわりと文字が浮かぶ。
『カッツェの国ワールド・トラベル出版 第5分室』
世界! 旅行! 出版?
出版ってたまに村長さんのところにくる新聞ってやつだよね?
神父様も怪訝な顔をした。
「社名だけじゃなく部署まで書かれているのは初めてみる」
「そこが僕に最適な職場なんですね! 出版ってよくわからないけど!」
「……まぁ、魔女様のご選択だから間違いはないと思う。……よし、ステータスカードに記載した。これを提示すれば就職できるだろう」
神父様と家族は酷く不安そうな顔をしていたけど、僕の前途は洋々と広がっていた。
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