1 カプト様が落ちていた。

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1-2 村から最寄りのラタラタの町への道中、カプト様が落ちていた。  ステータスカードを受け取った翌日、僕は意気揚々と村を旅立った。善は急げだ。美味しいものが僕を待っていると思うと、いてもたってもいられなかった。当たり前でしょ?  清々しい朝。門出にふさわしい快晴で、空には雲ひとつない。  家族も友達も村の入り口まで見送ってくれた。みんな心配そうな顔をしつつも、まあこんだけ耐性持ってりゃ行き倒れだけはないだろ、という言葉をたくさん貰った。  信頼されてる感。  カッツェ王国。  この村と同じ、『渡り鳥と不均等』の魔女様の領域にあるけれど、村の誰も行ったことはない場所。  なぜなら僕の国とカッツェ国の間には二つの国と森や山が横たわっていて結構遠い。だから餞別だって言われて、少し歩いたところにあるラタラタの町から出る遠距離バスの代金を出してもらった。  餞別? あれ? これってもう村に帰っちゃだめなのかな。うーん。  後で考えよう。  ラタラタの町へはだいたい歩いて3時間くらい。父さんと一緒に何度か買い出しに来たことがあるし、道もしっかりしているから迷うことはない。でも一人旅って初めてで、少しドキドキした。  母さんの作ってくれたお弁当は持ってきたけど、ついうっかり道沿いの林に見たこともない赤い実がなっているのが目に入った。キョロキョロと当たりを見回しても、僕を叱る人はいなさそう。前に父さんと通った時は父さんがいたからフラフラ寄り道はできなかったけど、今は誰もいない。ゴクリと喉が鳴る。  今がチャンスだ。あの赤い実が僕を呼んでいる。  ええと、ちょっとなら、ちょっとなら寄り道してもいいよね。  少し林に分け入ると、それはひょろ長い木に生った瓜形の赤い実?  近くで見るとなんだかやや紫色がかった毒々しい色合で、デコボコしていた。僕の経験上、キノコなら毒入りが多い色。でも果物だしなぁ? 大丈夫かな。嗅ぐと少し酸っぱい香りがする。酸っぱいものは大体ヤバい。  うーん、でもまあいいか。物は試し。  と思って端っこを齧ったら、なんだか妙に歯応えがなくてしわしわしぼんだ味がした。乾燥したタオルを齧ったときに似てるかも。口の中がちょっとごわごわした。そもそも旨みがほとんどない。ハズレ食品だな。  うーん、舌が痺れないから毒じゃなさそうだけれど、美味しくはない。無意識に口直しを探して見渡すと、少し先に同じように赤っぽい、直径三十センチくらいの大きさの何かが転がっているのに気がついた。
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