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検査入院期間は慣れないことの連続で戸惑うことも多かったけど、【性転換症候群】は生死に関わる病気やないので、一定の検査が終われば退院となる。俺も例外に漏れず五日ほどで退院し、職場に提出する診断書も受け取ってる。
「休職届、いつ出すん?」
今朝までたくんとこにおったおかんは俺ん家に移動してる。
「明後日になる。明日人事担当の人休みやから」
俺は病院から貰ったおびただしい数の書類を仕分けしながら返事する。
「あんたそんなん出来るようになったんやな」
「何が?」
「それよ」
おかんは俺の手元を指差した。
「こんなん誰でもするんちゃうの?」
「いいや。ほんこの前までのあんたにはでけんかった」
「そんなこと無いやろ、社会出たらこれくらい出来んと仕事にならへんやんか」
俺かて社会人になってもうじき十年を迎える。これくらい俺かてちゃんとやってるんやで……外では。
「あんたは昔っから口が動けば手が止まり、手を動かせば話を聞かん。そういう子や」
「そんだけ成長してるの。俺かて今年三十歳なんやから」
「正月に帰ってった時には出来てなかったっ」
おかんのきっぱりしすぎる口調に俺はちょっと笑ってしまった。女に変わっていく現実の中でも“いつも通り”を残そうとしてくれてるのかな? って考えがふとよぎって、『ここだけは変わらんよ』って伝えてるような気がした。
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