えっ? 何で俺が?

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 体が疲れていても心が沈んでいると寝てるようで寝た気がせん。早朝四時半という不自然な時間に目覚めてしまった俺は、昨夜から持ち越している疲労を洗い流そうと風呂に入った。少しぬるめの湯に浸かって汗を流し、ボディーソープで体を洗ってサッパリしたところで急激な目眩に襲われる。咄嗟の判断で座ったので大事には至らなかったが、一旦はスッキリした気分も再び下降線を辿っていた。  そろそろ病院に行くことも視野に入れた方が……そんなことを考えながらも現実から目を背け、胸の異変に気付いてからひと月近くの時が流れた。近くにある夜間病院なんてのも調べはしたが、診察の際上半身を晒さなあかんのかという羞恥心が決断の邪魔をする。  人という生き物はそれなりに順応性が高いようで、多少の異変に慣れてしまい病院に行くという選択肢が薄れ始めていた。胸の膨らみを誰にも相談できず、言わば騙し騙しの現状に甘んじたままやり過ごしていたら、仕事中突然下腹部の痛みに襲われる。人生で一度も経験をしたことの無い激痛に耐えきれなかった俺は気を失い、次に意識を取り戻すと病院のベッドの上にいた。 「みな兄?」  ぼんやりとした意識と視界の先には弟の拓磨(たくま)がおった。俺と同様実家を出てて、今一番近くに住んでるから連絡がいったんやろな。 「分かるか? 病院やで」  うん、少なくとも自宅やない……真っ白な天井と見たことの無い照明器具を見てから頷いてみせる。 「焦ったわぁ。みな兄の会社から『倒れた』って電話あってな、何事か思うて着の身着のまま出てきてしもた」
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