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たくはボサボサ頭に手をやって笑いかけてきた。コイツ美容師なんて仕事してる割にお洒落に大した頓着が無く、今着てるスウェットかて十代の頃からずっと使ってるくたくたの愛用品や。
「今おかんがこっちに向かってる」
俺はおかんというワードに心底安心する。一人暮らしの状態で体に不安を抱えてる今、一番必要としている存在であった。
「そうか」
「ちょっと痩せたんとちがう? ちゃんと食べてるか?」
そう尋ねられた俺は返事に窮する。言われてみたら最近食欲にムラが出てきてるような気がする。嗜好が変わってこれまで好きやった肉を欲しいと思わなくなり、どちらかと言えば苦手やった甘いものが急激に食べたくなったりなんて感じで……。
「うん、食べてる……よ」
多分弟は今の俺の食卓事情を知ったらびっくりするんちゃうかな?
「何か歯切れの悪い言い方やな、どないしたん?」
「ん〜、好みがめっちゃ変わった……ような気がする」
「そうなん? 舌がオトナになったんかな?」
たくの屈託のない物言いに、俺はそうであればいいのにと願いながら笑顔を作った。目を覚ました時に弟がおってくれたんは心強かったけど、このところの体の異変に対する不安は拭いきれんまんまや。
「風邪もほとんどひかんみな兄が入院するなんてな。見た感じそこまで悪そうやないけど、気分悪いとかってあるん?」
「今は無い……」
そういえばあの腹痛は何やったんや?
「まぁ、何も無かったらええな。おかんもうちょい掛かるから今のうちに寝とき、俺まだおれるから」
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