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先生はベッドの脇にある小棚にそれを置いた。
「小柳さん。思うことは色々あると思うけど、我慢せんでいいからね」
「えっ?」
「泣きたかったら泣いていいの、気に入らんことは気に入らんって言うくらいは構へんのよ」
彼女はそう言ってから俺の手を握ってきた。
「愚痴くらいならいくらでも聞いてあげる、私はそのためにおるんやから」
これが私の仕事やからと割り切ってらしたけど、突き放されてるって冷たさは感じない。
「直接言いにくかったらこっちでもいいよ」
先生は置いてある菓子パンの下に小さい厚紙を差し込むと、夕方にまた来ると言い残して部屋を出て行かれた。一人になった俺パンに敷き置かれている厚紙を手に取った。それは先生の名前、勤務先のメンタルクリニックと連絡先が書いてある。
名刺か……そう思いながら何気に裏返すと、手書きで携帯番号とメールアドレスが書いてあり、【何かあったらこっちに連絡くださいね】って一文も添えられてた。俺にはそれが神の言葉のように感じた。
大袈裟な表現って気もするけど、いくら本音でも死にたいとか元に戻してくれとかって言葉をやっぱり家族には言われへん。先生に言っても『いいよ』とはならんと思うけど、それでも家族とは別のはけ口ができたっていうのは俺にとってはありがたかった。
俺はすがるような気持ちで先生の連絡先をケータイに入力し、早速登録を済ませたことだけメールで伝える。すると先生から【OK】を意味する絵文字が返信され、頼みの綱ができたような安心感がほんのちょっとだけ宿った気がした。
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