残された時間で

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時間が、ない。 その言葉は、僕を現実に引き戻すには充分だった。 そしてそれを感じているのは、結子なんだ。 自分の身をもって、思い知らされている。 「正則さん」 目を閉じたまま、結子が僕を呼ぶ。 「どうした?水でも飲む?」 「ううん、いいの」 眠っているように見えるからか、とても穏やかで優しい顔をしていた。 「ねぇ、どうしてだと思う?」 「えっ?」 「どうして、私が死ぬんだろ?私、なにかしたかなぁ?そんなに悪いことした覚え…ないんだけどなぁ」 おかしいなぁ?と続ける結子が、ゆっくりと目を開いた。 「結子…」 「私、死にたくないなぁ」 どこか一点を見つめながら、結子が呟く。 これまで、一度も聞いたことがなかった弱音であり本音。 僕は結子のことを、とても強いと思っていた。 浮気した夫をあっさりと切り捨て、シングルマザーとして娘を育て、襲いかかった病に嘆くより先に娘の将来を任せられる相手を探し、見事に実行に移す。 どこかで、結子は自分の運命を受け入れているんだと思った。 だから有希のために、残された時間を有効に使う。 でも…そうじゃない。 そうじゃないんだ。 結子にこそ、残された時間を使わなきゃいけない。 「私、死にたくないよ」 何度もそう呟く結子の背を、僕は抱きしめることしかできなかった。
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