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でも〈彼女〉の気分の悪さが
ずっと続いて
お腹の中でちっとも育って
いないと言われた。
星がもう還りかけてる?
──仕事先で出血しちゃった。
連絡を受けて
〈彼〉が車で駆けつけた。
〈彼女〉は一晩限りの入院をし、
翌日には星を見送った。
せ せつなく
っ つらい
か かいなき
く くるしみ
やっと迎えたのに…
寒くて、暗い夜だった。
〈彼女〉を
〈彼女〉の家に送ろうと
〈彼〉は車を走らせた。
知らない道だ。
迷ったか?
ヘッドライトの
明かりを受けて、
星くずのような粉雪が、
ひらら と眩(ま)って、
きらら と散り飛ぶ。
淋しさが凍えて
走る車の助手席で
〈彼女〉が咽(むせ)ぶと
〈彼〉が言った。
──ほんと言うと…俺、
子供って嫌いなんだ…
手間がかかるし…うるさいし…
厄介…
だけど、彼の目に小さな星が
キラと光って流れて落ちた。
──短い夢の中で 一緒に
天上近くまで逝ったけど、
足の速い子だった。
あっという間に見えなくなって
私は腕と脚を縛られてたから
後を追えなかった…
( 全身麻酔で、意識がないにもか
かわらず、被施術者は暴れたり、
施術者に暴言を吐いたりすると
いうので、施術前に緊縛される )
ふたりは真夜中近くに
見知らぬ街のラブホに泊まった。
──日づけが変わった…
──バレンタインデーね…
ここしばらくの〈それ〉は味気
なかったな。
なんだか、ブリーダー ( 家畜や植
物などの交配、育種、生産などを
行う人。遊び道具屋 ) に強制され
て…無理矢理あなたとさせられて
でもいるかのようだった。
ひどく疲れた。
もう俺は、味気のない
〈それ〉は、やりたくないな。
それでも
初めてふたりで踊り明かした
あの頃の味を…
あ 愛撫や
じ 慈愛を
ふたりで迎えに行けるなら
あなたとの〈それ〉は…
セ せつなく
ッ つらい
ク くるしみ …を
ス ス キップ…させる
きっと…
俺はあなたと出逢うために
生まれて来たような気がするから
あなたが近くに居てくれれば
それでいい。
ありがとう。
それでは…
さようなら。
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