星を迎えに

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ずいぶん昔の話になるんだけど、 一回は〈ここ〉に来たんだよ。 なにか不都合があって、 僕は送り還されたらしい… 誰が…なぜ迎えに来たかは、 わからなかったが、 盆の家で知った。 〈過去帳〉での僕の名まえは 「走幻童子(そうげんどうじ)」 生まれて、 またすぐ星になった子だ。 それから少し後の話になる。 〈不妊治療〉ってのをしてた カップルがいてね… 〈彼女〉が36で〈彼〉が29 ふたりが強く望んだから、 僕はそこに降りて行こうと思った。 ふたりのデート先は 長いこと病院だった。 〈彼女〉は毎朝体温を計った。 1ヶ月に1度 〈彼女〉の仕事休みの水曜日に 〈彼〉が車で 〈彼女〉を迎えに行く。 それから、 ふたりが住んでる所とは 別の街へと 〈彼〉が車を走らせる。 評判の医師がいる病院のある街。 車で走りながらふたりが話す。 ──走るの結構速かったんだ俺。 毎年、紅白対抗に出たっけ… 昔の話だけどね。 ──私はクラス対抗だったかな。 小学校低学年の時ね。 高学年からはバトン振ってた。 マーチングバンド従えて気分は 悪くなかったけど… だいぶ昔の話よ。 とある街の評判の婦人科医は イケメンだ。 あ、イケメンで評判じゃない。 腕がよいって評判のイケメン。 院内で、 星のあるコンバースの ソックスを履いていて、 口ぐせが 「大丈夫、大丈夫」 いつも、2回言うんだ。 すると… ──患者さんから眉間の 縦じわが消えるのよ。 って婦長さんが微笑む。 魔法みたいに… この男(ひと)なら コンバージョン (変換、転換、回心)を 期待できるよ! ふたりで星を迎えに行こう! だからふたりは、決められ、 定められた夜にダンスを踊った。 セ せつなく ッ つまらぬ ク くるしみめいた ス ステップ だが、やがて甲斐あって 待ち望んだ星がやって来た。 おめでとう。 ふたりは結婚していたけれど、 別々に暮らしていたから、 これで〈彼〉は〈彼女〉を 家に迎えられると考えた。
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