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子供の頃、誰しもが経験したことがあるだろう迷子。雪哉もある。けど、誰も助けには来なかった。ただひたすら歩いて、見たことのある場所についた。きっと大した時間は経っていなかっただろうけど、あの時はえらく長く感じた。
なんだっけ、たしか、あのときは母親の仕事場に向かおうとして……。
まあ、でも今はもう大人だし、途中で公衆電話もあったが、迷子だから助けてなんて言うわけがない。あのときのように、ただひたすら歩いて見つけるしかないのだ。
……ああ、そういえば俺は元々身一つで転々としているような人間だし、ここらで別の飼い主を探すというのはどうだろうか。
ちょうど、なんで奏斗が世話しつづけてくれるのかわからなくなったし、こんなに興味持ってもらえないなら、いつか捨てられるだろう。
そうだよ、捨てられる前にこっちが捨てた方がいいに決まっている。
こんな面倒臭い思いをしたまま過ごすなんて、全然快適じゃない。自由じゃない。
……そうに、決まってる。
本当にそう考えが傾きかけたとき、唐突として後ろからぱっと何かに照らされた。
うわ、ここ車通るのかよ。そう思って道の端によけると、自分を追い抜いていくかと思われたその車が雪哉の横で止まった。
え? と思ってみると、窓が開いた。
「雪哉! あーもう、なんでこんなところにいるんだよ」
「え、奏斗?」
その車に乗っていたのは奏斗だった。
「いいから、とりあえず乗れ」
「え、あ……」
促されるままに、助手席に乗り込む。
運転席に座る奏斗の顔を見ると、悔しいけどほっとした。
「まさか迷子になるとは思わなかったんだけど」
「……うるせ、迷子じゃねーし」
暖房がついていて、自分の体が思いのほか冷えていたことに気づく。
……ハッ、まるでヒーローみたいだな。
でも奏斗が来なかったらと思うと……自分は、本当に他の飼い主を探しに彷徨っていたのだろうか。
「でも悪い。もうちょっとわかりやすいところにすべきだったな」
「だから、別に俺は……」
ぎゅっと和菓子屋の紙袋を抱える。
「……こわかった?」
「は?」
ぽかんとして顔を上げる。
すると、席を超えて、頭ごと抱きしめられた。
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