1. 大当たりか大外れか

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 夜、扉の開く音がして、奏斗が帰ってきたのだとわかる。  雪哉はぱたぱたと玄関まで駆けつけると、「おかえり」と言ってやった。 「……まだいたの」  はい、予想通り。  靴を脱いで家の中に入っていく奏斗うしろをついていく。彼はお疲れのようだった。  鞄を置いて、コートを脱ぐ。雪哉は奏斗が落ち着くまで待つ。 「……なに?」  さすがに雪哉の視線が気になったのか、振り返って聞いてきた。 「あー、うん。今ちょっと話いいか?」  奏斗がソファに座ると、雪哉もその隣に腰掛けて、体を向ける。  そして雪哉の言葉を待つ奏斗に、 「俺のこと飼わない?」  と普通に言った。工夫も何もない。 「は?」  奏斗はすぐ眉間に皺を寄せ、どういう意味だと当然の反応を見せた。まあ、そりゃそうか。  しかし、雪哉はいくら次の飼い主に困っているからと言って、この男を試さないわけにはいかなかった。ヒモだからといって下に回る気はない。 「まあ、そのままの意味だよ。猫みたいに俺を飼うってこと。それよりも金は断然かかるだろうけどな。俺は働かないし、家事もしない。どうだ?」  じっと奏斗の目を見据える。  さあ、嫌がるか、悩むか、笑うか。  しかし、奏斗は変わらない表情で、 「まあ、いいけど」  とあっさり承諾した。 「え、いいのか」 「は? お前が頼んできたんだろ」 「頼んで……っつーか」  あくまでも上から言ったはずなのに、頼み事として処理されてしまったとは気に食わない。 「まあ、なんとなくそんな感じしてたしな。ニート? ヒモ?」 「ヒモ」 「何が違うんだよ」  さあ、知るか。 「それにしても……お前、あの頼み方で通ると思ったのか?」  そして突然、堪えきれないといったように笑った。  あ、こいつ笑うんだ……。 「そういうの、普通もっと詐欺みたいな感じでジワジワやるのかと思ってた。お前はっきりしすぎだろ」  面白そうに話す奏斗。  他の人は知らないが、雪哉は自分で口説いて転がり込むのではなく、もっぱら向こうから誘われるスタイルだった。だから、今回は仕方なくこうしているだけだ。  しかし、あんなに愛想が悪かったのに、いっそ上機嫌で、不思議な男だ。 「……本当にいいんだな」  途端に居心地が悪くなって、少し弱気に最後の確認をする。それに、あまりにあっさりすぎて拍子抜けだ。 「好きにすれば。どうせ暇だから」 「あっそう」  ふん、暇だから飼うってか。まあ今はそれでいい。  だけど、飼い主になったからには自分に興味を持ってもらう必要がある。そして、どうしようもなくなったそれを、せいぜい利用してやる。
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