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2. 肉食か草食か
夜這い事件から数週間経った。
雪哉は絶賛迷子中だった。この歳にして、マジの方の迷子だった。
あの野郎、こんな複雑なところに俺を行かせやがって。
今日は休日で、奏斗も会社が休みだった。だからといって何を話すでもするわけでもないのだが(拒否られたばかりだし)、眠たくなってくる三時ごろ、相変わらずソファを陣取る雪哉にあいつが言った。
「たまには外に出ろ」
たしかに、外で発散しようと思ったりもしたが、そんな気にもなれず引きこもっていたのは事実だ。拒否されたのが地味にショックだったとか……いやいやそんなわけない。世の中にそんなやつが一人くらいいたっておかしくないだろ。
とにかく、外に出ると言っても行くところなんかないと言うと、おつかいを頼まれたのだ。
当然いやだと突っぱねたが、そうしたら夜ご飯抜きとか飼い主にあるまじきことを言い出したのだ。
というわけで、タクシーに乗って、少し離れたこの町までやってきたのだが……。
どこだよ、ここ!
あいつ、おつかいとか馬鹿にしてんのか? そんくらいできるわ。と思っていたのに、そんなこと言えた状態じゃない。
いや、目的の方は果たしたのだ。古びた和菓子専門店でいくつかの菓子を買ってこいとのこと。今、雪哉の手にはしっかりと紙袋が握られている。どこかのお偉いさんにでも渡すのか?
都会地域から少し外れたここは人通りもなく、タクシーもつかまらない。携帯の充電はさっき切れたから地図も見れない。ならバス停を探そうにも、進めば進むほど細い道になっていく。
もう暗くなってきた。軽く雪が降ってきて、寒さが増す。雪哉の顔にもさすがに焦りが浮かんだ。
……なんで、俺がこんなことに。
全部奏斗のせいだ、奏斗が俺を拒否って、おつかいなんかさせるからだ。
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