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やっとの思いで家に帰ることができた。ここがこんなに恋しくなるとは思わなかった。
「あー……散々だった」
ソファにぼふんと背中からダイブすると、そういえばずっとあの和菓子屋の紙袋を持っていたことを思い出す。
ふと改めてそれを見たが、思わず体を起こし絶望した。
「おい、まず風呂入れ……って、どうした?」
これを買うためにあんなところまで行ったのに。迷子にもなって。
「……おい、本当にどうした?」
急に黙った雪哉のところまで近づいて覗き込んでくる。
「……これ」
握りしめたりしたせいで、きれいだった紙袋はぼろぼろになっていた。明らかに人さまに贈れるような状態ではない。奏斗に、頼まれていたものだったのに。
「あー、紙袋ぐちゃぐちゃになっちゃったんだな」
「悪い……」
俺は何もしない。ただいるだけ。
だからこんなことができなかったからって、落ち込む必要なんかないはずなのに。
「いやいいよ。中身が食べられるなら別にいいだろ?」
は? こんな状態でお偉い方に渡すつもりなのか? 中の箱も、たぶん角とか潰れているし。知らないけど、クビになんぞ。
風呂沸かしてくるわ、と行ってしまおうとする奏斗を慌てて引き止める。
「おい、やめとけよ。こんなの渡したら怒られるぞ。なんなら俺がもう一回行って……」
「はあ? ……あ、お前、何か勘違いしてない?」
すぐ気づいたように奏斗が言った。意味がわからないと眉を顰めると、「それ、お前のだから」と言われる。
「…………はあ?」
「そこの和菓子すげえ美味しいんだよ」
なんでもないように、真顔で言ってくる。本当に美味しいと思ってんのか?
いや、それより……
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