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「じゃあ、なんか偉い人に渡す菓子じゃ……」
そう言うと、奏斗は呆れたようにため息を着いた。
「偉い人って。だとしても、俺の仕事をやらせるわけないだろ」
「じゃあ、これは俺の……」
「さっきそう言っただろーが。おつかいした後はご褒美だろ、普通」
知らねーよそんな普通、つーかご褒美買いに行かせたのかよ、なんて思いながら雪哉はもう一度ぎゅっと紙袋を握りしめた。でもなんだ、そうだったんだ……。
「なに、お前これ俺が仕事で渡す用だと思って、ぼろぼろにしたから落ち込んでたのか? まじか、お前」
奏斗が面白くてたまらないといった様子で笑った。がんばったのに、なんてガキみたいなことは言わないが笑われると当然腹が立つ。と同時に、レアな笑顔を見せられると、なぜか心臓がぎくりとしてしまうからやめてほしい。
「うるせえ、バカにしてんのか」
「違う違う、お前にも可愛げあったんだなって、それだけ。あー面白い」
「なっ……」
まあとにかく風呂だと笑いを抑えきれていない奏斗は言うと、今度こそ風呂場に向かっていった。
雪哉というと、ばくんばくんと鳴る心臓とか、かあっと赤くした顔面を静めることに必死だった。
可愛げがあると言われただけで、なんでこんなに落ち着かないんだ。今までに何度も言われてきたようなことなのに。
もしかして俺、普段そういうことを言わないあいつが言ったから、喜んでいるのか? この俺が? たったそれだけで?
ぎゅう、と唇を噛み締める。
たしかに、飼い主に興味を持ってもらえないなんて俺のヒモ道に反するなんて思っていたけど、そこに自分の感情は関係なかったはずだ。
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