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奏斗が用意した風呂で十分にあったまり、髪を乾かしてリビングに戻ると、テーブルに料理が並んでいた。
「あ、出た? 食べるから早く座れ」
「ん」
めちゃくちゃ歩いたせいでお腹が空いている。そういえば、こいつ夕飯と引き換えにおつかいに行かせたんだったな。と思い出したけど、もう腹は立てなかった。そんな気力も残ってない。
「いただきます」
と手を合わせた奏斗に、雪哉もいただきますと続く。
雪哉の大好物の柔らかい肉がたくさんあって、漫画であれば涎をじゅるりとしているところだ。食べ進めていくと、腹が満たされていくのがわかる。
食べるときは二人とも全く話さない。
そんな中、目が合わないのをいいことに、奏斗の様子を伺った。
本当こいつ、意味わかんないよな……。基本雪哉に興味ないのはもうわかっているとしても存在を無視するわけではないし、普通に話すし、割としっかり世話焼いてくるし、助けに来るし。
そう、普通なのだ。雪哉を特別に扱うことがない。きっと、雪哉でなくともそうしているだろうという普通。
つまりそれは、雪哉に今までの飼い主のような暑苦しいほどの関心を持っていないということだ。雪哉は奏斗のそれがずっと気に入らなかった。
何を考えているのかわからない。やっぱり不思議な男だ。
「食欲ないのか?」
「や、違う、ある」
考えているうちに、手が止まっていた。慌てて否定する。
「余裕あるなら、あの和菓子も後で食べれば?」
「……」
「雪哉?」
こっちも見ずに言った後、返事のない雪哉に奏斗が顔を上げた。
「……お前も」
ん? と奏斗が耳を傾ける。
「……お前も、食べろよ」
そっぽを向いて言うと、奏斗が「へえ」と謎の納得の反応を見せた。
「お前に人に分けるっていう考えがあったのか」
「ああん?」
反射でヤンキー顔負けのムカつき顔を返す。
しかし、
「いいよ。半分ずつに分けて食べよう」
とまた食事に意識を戻しつつ穏やかに言ったので、今度はむず痒い気持ちになった。
こうして飼い主に自ら餌を分けようとするのは、ヒモ道に反するのかしないのか。前例がないから、わからなかった。
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