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「なんか食べたいものある?」
「肉、高くてうまいやつ」
「お前そればっかりかよ」
最初はあまり会話をしなかったものの、前よりは確実に馴染んできたと思う。
奏斗も雪哉のヒモっぷりにだいぶ慣れたらしい。
リクエストを聞いた後、奏斗は買い物に一人で出かけようとしたが、雪哉もついていくことにした。
「珍しいな」
「休みのうちにいっぱい菓子とか買っとかねーと」
「買うの俺だけどな……」
とたわいのない会話をしながら駐車場まで行き、車に乗り込むと、店まで向かって走り出す。
暗めの駐車場から出て、青い空が広がる。すぐ大通りに出ると、車や建物が増え、雪哉は窓の方に頭を預け眺めた。
あのおつかいの件以来、雪哉はおかしくなってしまった。
前にも思った通り、雪哉への接し方が普通すぎる奏斗。雪哉でなくても同じ扱いをしているだろうという感じ。
雪哉はそれが不満なのに、「じゃあいいわ」と奏斗の家から出ていこうなんて全く思わないのだ。不満があれば我慢しなくていいはずのこの雪哉が。
きっと、こいつのつくる料理が美味くて、やりすぎないちょうどいい具合に面倒見が良いからだ。それがどうしようもなく楽で心地よい。
とにかく、今まで関わってきた雪哉に完全に興味がないか、過剰なまでに興味を寄せ雪哉を見ていないような人間ばかりの中で、奏斗は違っているように見えた。
雪哉は、奏斗は悔しいことに珍しく自分に興味がないタイプだとずっと思っていたが、実はあのおつかいの件でわかったことがある。
あいつはどうやら、雪哉への興味が完全にないわけじゃないらしい。いうなれば、ヒモではなく、もはや普通のペットへの……いや、それとも少し違う。じゃあ、ニートの同居人……友達? ……おえ、もっとない。
どちらにせよあまり嬉しくない。
暇だから、と最初に言っていたように、やはり大した意味はないのだろう。軽すぎて腹が立つが。
雪哉だって、良物件の飼い主でなければ本来こんなに頭を使うこともないはずなのだ。
今さらまた彷徨うのは嫌だからな。ただそれだけだ。
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