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買い物から帰ってきた後、やっぱり奏斗は雪哉のリクエストどおりにご飯を作った。
この自分好みの料理を食べるたびに、もう他のことなんてどうでもいいか……と思ってきてしまうので、こいつの料理は危険だ。危険だけど求めてしまう。毎回このサイクルだ。
「お前、自分が食べたいものとかないわけ?」
夜ご飯を食べ終え、早めに風呂にも入ってしまうと、ちょうど一緒にソファに腰掛けながら過ごす時間があった。
テレビのあるのはリビングだけだから仕方ない。奏斗はまた書類の確認とやらをしていた。
「え? ないな。だからいつもお前に聞いてんの」
今まで適当に食べてたし、と続ける。
「ないってことはないだろ」
はあ? という顔で雪哉がずいと近寄る。ヒモの立場から言わせてもらうと、人間、飯さえ食えれば生きていけるんだぞ。というかお前は飯を食うために仕事をしてるんじゃないのか? 生きがいだと思ってやっているようには思えないし。
母もそうだった。ただ生きるため、ヒモ男を生かすためだけに働いていた。あとついでに雪哉のことも。
「本当にない。今まで一度もない」
「ええ……」
今まで一度も、でちょっと引いた。それとも贅沢しすぎたせいで食べたいものを全て制覇したとか? それでもまた食べたいものが出てくるのが普通だろう。
そこまで食に関心がなかったとは。料理できるのに。
「でもあの和菓子は好きなんだろ」
「まあな」
それだけ言うと、また書類確認に集中し始めてしまった。もとより、こちらをチラッとも見なかったが。
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