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「この泥棒猫っ!」
今時そんなセリフ言うやつがいたのか。そう思いながら、雪哉はヒリヒリ痛む頬を抑えてハッと挑発的に笑った。
「ヒステリック女かよ」
「雪哉、口を慎め」
白鳥が睨んだ。あーはいはい、どっかの御令嬢様様だっけ。そりゃ仕方ない。雪哉は皮肉に思いながらもおとなしく黙った。
「由里子、家で説明するから……」
数ヶ月前に籍を入れたヒステリック妻を玄関で宥めながら、白鳥は雪哉が部屋に入ることを目で促した。仕方なくその場から去る。雪哉の天然の柔らかい茶髪がさっと揺れた。
────普通にしていたら儚さを思わせる目つき、小さめの鼻に形のいい薄い唇。甘さを含んだ整った顔は綺麗と表現されることが多い。今まで多くの人間に求められた体はすらりとバランスが良く、細くてしなやかだ。昔から、その外見はよく人目を引いた。
その見た目には似合わない乱暴な口調で、雪哉は「チッ、痛えな」と部屋で一人呟いた。頬がさっきより痛い。あのヒステリック女、男だからって思いっきり殴りやがって。パーじゃなくてグーかよ。
そもそも、白鳥が雪哉を囲っているこのマンションの一室がバレたのが原因だ。あの新妻、探偵でも雇ったか。それでもあいつが迂闊にドアなんか開けなければよかったのに。というか完璧なセキュリティとやらはどうした。
とにかく、飼い主であるあいつが悪いに決まっている。俺のせいではない。
俺はいるだけ。わざわざ掻き混ぜたりもしないが、気遣ったりもしない。
何もしない。だって、それがヒモだろ。
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