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よその夫婦の浮気したしてないの抗争に巻き込まれてたまるか。
自分に与えられたこのマンションの部屋は、今までで一番快適だった。若いけど大企業の社長だし、お金も使い放題だったのに。やっぱり、良物件の割合が多くても既婚は避けるべきか。ていうか、住み着き始めたときはまだ結婚してなかったし。
潮時だな。
白鳥に買ってもらったものは大量にあったけど、必要なものだけ持って部屋を出る。白鳥とその妻はまだ玄関で何か話していたが、その横で靴を履き、ドアノブに手をかけた。
「おい、雪哉どこへ行くんだ」
「今までお世話になりました、じゃーな」
口だけで言うと、玄関のドアを開けて軽い足取りで出ていく。
あまりに淡々と言ったので理解に時間がかかったのだろう。しばらくして、
「雪哉、待て!」
と追いかけてきた。
こういうめんどくさいことはヒモにつきものかもしれないけど、嫌なもんは嫌だ。そもそも、このままいてどうすんの? 未来あんの?
「妻のことは何とかする、だから少し待て」
「いいよ。あんたには随分よくしてもらったし。奥さんの相手だけしてろよ。ほら、怒ってる」
指さした方向を見ると、ヒステリック妻も玄関から出てきて、その子の方が大事なのね!? とか、訴えてやる! とか喚いてやる。うわ、それだけは勘弁。
「ゆ、由里子」
白鳥はいつもの威厳をなくして、うろうろしたあげく、妻を引き止めに行った。でもすぐまた追いかけてきそうだから、その隙にエレベーターに乗り込む。
あー、散々だ。
不倫した方が悪いって? 俺は恋人でもない、ただのヒモだし。言うなれば飼い猫。旦那が猫を飼って、そこまで怒れるか?
まあ、説明したところでわかるまいと諦めるのが人間版飼い猫だ。だって本当の猫は飼い主とセックスしない。
俺はいるだけ。何もしない。
他人の気持ち、事情なんか知ったことか。
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