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外でぶらついているうちに、すっかり日は落ちてしまった。
白鳥のことは上手く撒けたらしいからいいとして、今夜の寝床がない。頬もまだ痛いし。
この俺が野宿? 嘘だろ。しかも今は十二月。凍え死ぬ。白鳥に与えられたコートだが、羽織ってきて正解だった。
適当に近くの公園に入って、ベンチに腰を下ろす。
男を捕まえるより、女を捕まえる方が早いか……。
と今夜の行く末を真面目に考え始めたところで、いつの間にか近くにいたらしい、四十代くらいの男が話しかけてきた。
「誰か待ってる?」
……なるほど。
すぐその目を見てわかった。さっきまでは気づかなかったけど、ここはそういう場だってか。
金持ちではなさそうだ。それに、いけおじならいいけど、きもおじだ。でもまあ、一晩くらいならいいかもしれない。宿無しよりはマシだろうし手間が省ける。
「野外プレイは嫌なんだけど。あと金もねえよ、俺」
「もちろん、私がホテル代を出そう」
それさえクリアすれば誘いを受けてくれると理解したのか、興奮した様子で図々しく雪哉の腕を掴む。
……やっぱり、なんか嫌だな。
渋々ベンチから立ち上がったが、はたと立ち止まる。汗ばんだ手で雪哉の手首を引く男が、どうしたんだい、と振り向く。やっぱりやめる────そう言おうとしたところで、
「大丈夫ですか?」
すっと澄んだ、でも落ち着きのある低い声が、後ろからはっきり届いた。
「え?」
きもおじの方が先に反応した。何をそんなに驚くことがあるのか。
しかし、今日はよく話しかけられる日だな。いや、ここがハッテン場だからか。
でもこのきもおじよりいい男なら、そっちに行ってやってもいい。そう思って振り向いた。
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