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男が住んでいるマンションは歩いてすぐのところにあった。
そして、自分の目に狂いはなかった。なかなかいい新築マンションだったのだ。そりゃあ社長である白鳥ほどではないが、若いにしては相当稼いでいるのだろう。
エントランスで慣れた動作で暗証番号を入力する。自動ドアが音も立てずに開いた。
「仕事何やってんの?」
「金融関係」
「へえ」
────将来有望か。
雪哉は後ろについていきながら、こっそり口角をあげた。
エレベーターに乗ってひゅうっと上まで一気にのぼる。そして五階で止まった。さすがに最上階というわけにはいかないか。
少し廊下を進んで508と表記のある扉の前で止まる。鍵を差し込みがちゃりと重厚な音を立てて開いたら、「はい」と促された。
「おじゃましまーす」
遠慮せずに中に入ると、ぱーっと中を見て回った。広いし、綺麗だ。一人暮らしだろうから当然ベッドは一つしかなかったが、部屋には余裕がある。たしかに白鳥にはマンションの一室まるまる与えられ基本一人で過ごしていたが、そうでない人たちの方が断然多い。大抵は雪哉に家の一部屋のみを与え、一緒に暮らした。元々、誰かと暮らすのは苦ではない。
雪哉はすっかり住み着くつもりだった。今からまた飼い主を探すのはめんどうだ。そもそも今まで誘われて転々とするばかりだったから、自分から探したことがない。
リビングに戻ると、男はソファに座り書類やらなんやらを広げていた。自分もその隣に腰かける。
「仕事まだあんの?」
「いや、確認してただけ」
「ふーん。ていうか、名前聞くの忘れてた。教えろよ」
命令形かよ、という顔で見てくる。
「九条奏斗。お前は?」
「雪哉。ちなみに26」
「じゃあ同じだな」
奏斗はそう答えると書類を片付けた。同じ歳だろうという予想は当たったようだ。
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