パリピ彼氏

1/6
前へ
/6ページ
次へ
 私の彼氏はいわゆるパリピだった。一方の私といえば、地味で可愛くもない真面目だけが取り柄の女子。私は彼の自分にはない明るさに惹かれて付き合った。彼はどうして私と付き合おうと思ったのかは分からない。  彼の友人関係はとても広くて、辿るところを辿れば有名人に辿り着いてしまうのではないかと思うほどだった。彼の話にはいつも私は知らない名前が飛び交う。彼もその人たちについて、関係性などを細かく説明しようとしない。大雑把な性格でもあるのだ。私は彼のことを知ろうとしたけれど、彼はそれを詮索されることを嫌がることを知り、私は話を聞くことに徹することにしていた。  約束の二時間前、夕方四時のことだった。 「今日のクリスマスの約束だけど、遠藤がフラれちゃって、そいつのこと励ます会に参加することにしたわ、三年も付き合ったのにかわいそうになぁ」 「そっか、分かった」  クリスマス。数ヶ月前から楽しみにしていたことを心の内に隠し、それだけ答えた。  日中から買い物に行き、準備していた料理たちがテーブルに可哀想に並んでいる。本棚の一角には予め用意していたクリスマスプレゼントとクリスマスカードが入った紙袋が置かれている。私は無言で散らかった料理道具や料理の残骸を黙々と片付け始める。ケーキは彼が用意してくれることになっているけれど、それはどうするのだろう。予約はしていたのだろうか。  私は努めて何も考えないようにしながら、ひたすら動く。  そのとき、玄関のチャイムが鳴らされた。  ドアチェーンをしたまま、恐る恐る玄関を開くとそこにはサンタクロースの格好をした彼が立っていた。 「びっくりした⁉︎ サプライズ!」  彼はそう言って大きな白い袋に入ったプレゼントと、ケーキを掲げて見せる。  私はポカンとしたまま彼を家の中に招き入れた。丁度隣の部屋に来たピザの配達員もサンタクロースの格好をしていた。隣の部屋から、子どものはしゃぐ声が聞こえてくる。 「用事あったんじゃなかったの?」 「ないよ! ない! あったとしても、クリスマスは彼女優先に決まってるでしょ!」  彼はそう言って私の前でターンし、決めポーズをして、「どう?」と聞いてくる。 「びっくりした。あと、ご飯準備してたやつ片付けちゃった」 「それだけー⁉︎ 俺、何日前から準備してたと思うのよ」  彼は思ったより私の反応が薄かったことが気に食わないらしく、しつこくサンタアピールをしてくる。 私は想定外の行動があまり好きではない。これから、準備を再開しても容易に二時間はかかる。時計の針はもう八時を過ぎている。結局彼が買ってきたケンタッキーフライドチキンを食べ、ケーキを食べてクリスマスの夜は終わった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加