ある剣士の、相棒の物語

　僕はただの吟遊詩人。
　しかし僕が歌うはただひとつ、ある気高い剣士の旅の物語だけ。

　今日はその歌の出来た、最初の物語をお聞きください……

　その剣士は凛々しく雄々しく、強者と言われた剣の使い手です。
　しかし、射抜くような鋭い眼差しと見事な先読みの剣捌（さば）き、時に容赦のないその戦いに、血塗られた剣士とまで呼ばれていました。

　故郷を滅ぼされ仲間を殺され、敵討ちの一人旅…
　いいえ、一人ではありません。彼には相棒がいました。

　そう、これは相棒である獣の物語…

………

　剣士の彼が乗るほど頑丈で四足歩行の、他とは変わった姿の獣。
　その獣は温厚で忠実で、剣士である彼を誰より慕っていたのです。

　どんなに敵に叩かれようとも自らは敵に対し牙も足も出さずに剣士である彼を守り、決してそばを離れないほど。

「疲れていないか？」

　温厚な相棒を気遣い、よく体をさすってやる剣士の彼。

　普段は冷たく相手を切り裂くような視線、冷静な物腰の彼も、相棒である獣にだけは頑丈な兜から温かい視線をやります。
　獣も彼の優しい心遣いと優しい手に、心穏やかな様子でつぶらな目を細めていました。

　長い旅を続けていた彼らも、とうとう敵の居城が見える街にたどり着きます。

　心無い者たちに荒らされ貧しく廃れかけた街ではありましたが、そこに住む人々は寄り添い力を合わせて生きていました。

　そんな街の人間たちを見て、剣士の彼の表情は少しだけ穏やかになりました。

　そんな街で最後の宿にした剣士と獣。

　剣士は夜、取った小さな宿の小さな庭にやってきて、眠る獣に小さな声で言いました。

「…お前には辛い思いをさせた。人も傷つけられぬほど温厚だったお前を、敵の血で染めたのは私だ…。きっとお前にはもっと合う生き方があったはずなのに、手放さなかった私を許しておくれ…」