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「えっマンション!? 持ってないです、持ってない持ってない」  柳田が住んでいるのは親が持つマンションだが、あくまで持っているのはその一部屋だという。  神島はいまだに大学生の頃に借りたアパートに住んでいる。今の給与ならもう少しいいところを借りられるのだが、荷物が多く引っ越しが嫌で、そのままずっと住んでいる。  実際、柳田の家はなかなかいいマンションだった。後片付けは柳田に任せられるし居心地がよかった。さすがに職場の先輩に居座られたら嫌だろうと思ったが、彼の答えはあっさりしたものだった。 「いや別に全然いいすよ、神島さん吐かないし」  柳田はもともと、頼まれもしないのに人のサラダを取り分けるようなタイプだ。家のことを細々するのも好きなようだった。  だから神島は、後輩の言葉に甘えていた。  あの狭いオタク部屋を見た日以来、柳田は露骨に神島を避けるようになった。 「そういやさ、柳田」 「あ、俺ちょっと用事が」  何でもないようにと思って神島の方から話しかけたのに、柳田の反応は露骨だった。あらぬ方を見て神島を避け、歩き去ってしまう。  ――この野郎。 「柳田、S社の課長の名刺持ってるか?」 「あ、はい。あ、いやないです。すみません」 「どっちなんだよ」 「荒井さんに聞いてください」  それからも何度か神島から話しかけたが、明らかに避けられた。  今、抱えている案件は柳田とペアではないので直接業務に支障はない。だがさすがにむっとした。 ――何だよ。  そんなにあのオタク部屋を見られたことが恥ずかしいのか。もやもやした気持ちを抱えたまま、神島は営業に出かける。 「俺が悪いのかよ……」  お前は無神経だとは昔からよく友人に言われた。だけど今回は、自分が悪いとはとても思えなかった。  ・  自分は営業には壊滅的に向いていない。柳田睦はそのことを、配属先が決まったときからわかっていた。  まず、気が弱い。そして人見知りだ。体育会系サークルに入っていたことや、大柄な体格からよく誤解されるが、柳田は気弱なたちだった。  少し前のことだ。上司に失敗したコンペの報告をしなければならなくなり、話す前から既に胃が痛かった。 「駄目だったのはわかる。だめだったという結果だけならバカでも言える。何が要因だったんだ? 取ったのはどこだって?」
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