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ぎゅうと胸が締め付けられるように痛んだ。それは彼の本心なのだろう。でもなぜそこまでしてくれるのか。
柳田はじっと神島を見つめた。かっこいい人だ。それがまた腹が立つ。いくらでもモテるだろう。こんな根暗な後輩と、飲んだりしなくてもいいはずだった。
「……どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「それは……仕事だってあるし」
「仕事」
「いやプライベートでも、また、家で飲んだり楽しく過ごせたらいいなっていうのもある」
年上だし、自分よりずっと仕事ができる先輩だ。そんな彼が、少し慌てているように思えて新鮮だった。
もう、嫌われるなら嫌われるでいい。やけに酔いが回っていた。
「本当に、悪いと思ってるんですか?」
「そうだよ」
「じゃあ、誠意見せてください」
「は?」
神島はぽかんとした顔をしていた。
「誠意ですよ。本当に謝るつもりがあるなら、偏見がないっていうなら、見せてください」
・
「いやーそれは俺でも怒るわ」
柳田に謝罪をする前、神島は大学の友人の深江と会っていた。
相談というほどではないのだが、という前提で柳田のことを話したところ、神島はこんこんと諭された。よくわからないものを、自分のものさしで断罪してはだめだと。悔しいけれどその通りかもしれなかった。
「とりあえず、さっさと謝ってくれば? ていうか神島が、そんなに気にしてんの珍しいな」
「俺だってちゃんと気にする」
「無神経王子のくせに」
「その呼び名はやめろ」
深江によると、神島は今までも散々自覚なくひどいことを言ってきているらしい。確かに元彼女などの言動から思い当たるところがないではなかったが、ぴんとはこない。
なぜ、柳田のことはこれほど気にかかるのだろう。
柳田の家はどこより居心地がよかった。それはきっと、柳田が色々と気を遣っていてくれたからだ。寒くないかとか、水を飲むかとか、さりげなく神島の欲しいものを察して声をかけてくれた。
「なんか、全然あいつのイメージと違ったんだよな、趣味が」
「わかんないだろ、そんなの」
「何度も二人で飲んでんだぞ?」
「俺なんて、コスプレのことは奥さんにも言ってないぞ」
深江は社会人だが、夏と冬にはコミケに出てコスプレをしている。それもあって、神島は彼に声をかけたのだった。
「それは早く言ったほうがいいんじゃないか……?」
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