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見るな…
これ以上見たら抑えが効かなくなる。
舛花は自身に言い聞かせた。
怒りを面に出せば、紅鳶をますます不審に思わせてしまうだけだ。
だが、視線を外そうにも体は少しも言うことを聞いてくれない。
「次は少し触れる。だが焦るな、ゆっくりだ」
舛花の心情など知る由もなく、紅鳶は淡々と進めていく。
「視線は外すな。少しでも外すと相手が不安になる。大丈夫だ、任せておけばいいと目で語りかけるんだ」
「は、はい」
言葉通り、紅鳶は升麻へと視線を注いでいる。
升麻の瞳も紅鳶へと注がれている。
まるで二人きりだけのような世界。
すぐそばに舛花もいるのだが、二人からしたら透明な存在なのだろう。
腹の底で何かがぐつぐつと煮えるような感覚がする。
その時。
紅鳶の手が升麻の着ているシャツのボタンに触れた。
その指先がゆっくりとした動きでボタンを外していく。
ひとつ、ふたつ…みっつめのボタンに手がかかった時。
カッ、と頭に血が上った。
はらわたが煮えくりかえるというより、爆発した感覚がする。
プチン、と何かが切れた音がしたその直後、無意識に体が動いていた。
紅鳶の腕を掴むと升麻の上から強引に引き剥がす。
そして、顔を洗ったらタオルで拭くというごく自然な流れの感覚で、かたく握った拳をふりあげていた。
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