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その気持ちに気づいた途端、舛花への気持ちがどっと溢れてきた。
と、同時に今頃になってショックが襲ってくる。
舛花は通常業務に戻る。
それはつまり、彼が升麻の教育係としてここに来ることはないということだ。
もう言葉を交わすことも、同じ部屋で過ごすこともできない。
もしも会えるとしたら升麻が無事研修を終え、晴れてゆうずい邸の男娼として表舞台に立った時だろう。
だが、升麻にはそれがどれくらいの期間かわからない。
数ヶ月か、数年後か…
どちらにせよ、もう教育係ではない舛花と会えるかどうかは升麻の努力にかかっているのだ。
しかし升麻にはひとつ気がかりな事があった。
それは自分自身の体の事だ。
幸い今のところ症状は落ち着いているが、いつ大きな発作が起きて体が限界を迎えるかわからない。
もしかしたら明日、いや明後日、突然倒れて病院送りという可能性は常にある。
そうすれば男娼どころか、舛花に会う事すら叶わない。
もっと体が丈夫であったら…
健康体であれば多少の無茶もできて早く舛花と同じ場所に行くことができる。
生まれた時から何度も何度も繰り返し思ってきたが、これほど自分の中に巣食う病を憎いと思ったことはなかった。
舛花を思う一方で、片想いで終わる恋という覚悟もしていた。
舛花とどうにかなりたいなんて贅沢なことは一切望んではいない。
そもそも舛花にとって升麻はきっと恋愛対象にもならないからだ。
「抱き心地悪そうだ」とハッキリ告げられたし、自分でもそう思う。
抱くならこんなガリガリの病気持ちなんて選ばない。
それに、舛花にはきっと沢山の客がついてるだろう。
同じゆうずい邸には升麻の知らない美男子たちがごろごろいるはず。
そんな中で、舛花が特別に思ってくれる可能性なんてゼロに等しい。
それはじゅうぶん理解している。
だからそばにいるだけでいいのだ。
ただ、もっと近くにいて彼の事を知りたいだけ。
声を聞いたり、時々視線が合ったり、他愛のない話をしながら一緒の時間を過ごす。
その中で舛花の事を少しずつ知っていく…
それだけでじゅうぶん幸せなはずだから。
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