花のうてな 5

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風を切るような音がしたかと思った次の瞬間、鈍い嫌な音が響いた。 目の前にいたはずの男の体が横に吹き飛び、それを追うようにもう一人の男が飛びかかっていく。 床に転がった紅鳶の上に馬乗りになり、胸ぐらを掴むと再び拳を振り上げる舛花。 そのあまりにも俊敏な動きに、升麻は成す術もなくただ呆然とするしかなかった。 数分前。 舛花は突然部屋にやってきた。 教育係ではなくなった舛花とはもう暫く会う事はないと思っていたから驚いた。 それは一緒にいた紅鳶も同じだったらしい。 舛花の姿に僅かに驚いた表情をしていた。 だが紅鳶は特に理由も聞かず、升麻への指導を続けようとした。 すると突然傍で見ていた舛花に殴られてしまったのだ。 二人の関係性がわからない升麻には、なぜ舛花が紅鳶に殴りかかったのか理由が全くわからない。 だが、瞳孔が開き正気を失ったような舛花の顔を見た瞬間、只事ではないと感じた。 そして咄嗟にベッドから飛び降りるとその腕に縋りついていた。 「舛花っ!!」 升麻の声にハッとしたのか、舛花の目に正気が戻る。 そして、自分の振り上げた拳と下敷きにしている紅鳶を交互に見た。 「え?あれ…俺…何して…」 みるみる顔が青ざめていく。 今度は弾かれたように飛び上がると部屋の隅までジリジリと後退りしていった。 「俺…何してんだ…?」 「…それはこっちのセリフだ」 床に倒れていた紅鳶が低く唸りながら起き上がる。 すっかり乱れてしまった髪を無造作に掻き上げたその時、紅鳶の口端から血が滴り落ちるのが見えた。 恐らく舛花の拳で口の中を切ったのだろう。 「あっ…ち…血が…」 升麻の言葉に紅鳶が指先で口元を確認する。 指についた血液にわずかに眉を顰めたが、軽く拭っただけで何事もなかったかのように立ち上がった。 「平気だ。お前は怪我はないか」 「は…はい…」 升麻の言葉に小さく頷くと、紅鳶は部屋の隅で青ざめている舛花に向かって言った。 「それで、一体どんな理由があって俺を殴ったのかきちんと聞かせてくれるんだろうな?舛花」 その威圧感は、第三者の立場である升麻でも身震いしてしまうほど強烈なものだった。
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