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「好き…舛花が好き」
ストレートな気持ちが唇からスルリと溢れた。
少しの引っかかりもなく、まるで空気を吐くように自然に言葉にできたのは、心の底から思っている素直な気持ちだからだ。
言ってしまったという後悔もなく、升麻は舛花の言葉を待った。
視線の先では、整った顔立ちが僅かに驚いた表情をしている。
だがすぐに伏し目がちになり、深いため息を吐くと、舛花はガシガシと頭を掻いた。
「マジカッコ悪ぃ」
ボソリと呟いた言葉に升麻は「え?」と問い返す。
「先に言われたの…マジカッコ悪いんですけど。俺から言おうと思ってたのに先越すなよな、童貞のくせに」
一瞬、どういう意味かわからずにかたまった。
だが、すぐに理解して顔がじわじわと熱くなっていく。
玉砕覚悟と言ったら大袈裟だが、自分の気持ちを伝えるだけで十分だと思っていた。
舛花にはきっと何人もの『恋人候補』がいて、その中に自分は絶対に含まれることはない。
むしろお荷物のように思われていると思っていたからだ。
夢かもしれない…
またいつものように体調を崩して倒れて、病室のベッドで見てる夢なのかも…
だが、いっこうに場面が切り替わる様子もなく心臓が跳ねる鼓動がやけに耳に響いてくる。
「何か言えよ」
黙り込む升麻に痺れを切らしたのか、舛花が升麻の額を指で軽く弾いた。
僅かな痛みが、これが夢ではないことを知らせてくる。
「え?な、な、何を…」
「は?何ってわかんねぇの?自分から告ってきたくせに!?」
「ぼ、僕はちゃんと言ったよ!言ってないのは舛花でしょ!?」
理不尽な要求に升麻は思わず突っ込む。
いつもならここで言い返しの言葉が飛んでくるはずだ。
だが今日は違った。
抱えられていた腰を引き寄せられたかと思ったら、次の瞬間には舛花の逞しい胸板に頬がくっついていた。
ドクドクと跳ね上がる鼓動。
それが自分のものだけじゃないと気づいたのは、舛花にくっついた左耳からも聞こえてきたからだ。
このまま時が止まってしまえばいい。
そう思った数秒後…
耳元で掠れたような低い声が囁いた。
「……スキだ…」
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