花のうてな 7

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花のうてな 7

物心ついた頃から、舛花はなんとなく自分の居場所がないことに気づいていた。 6畳ほどの部屋が一つと小さな台所と洗面台と浴室のある二階建ての木造アパート。 舛花はそこで母親と二人で暮らしていた。 父親はいたのかもしれないが、正直どれ(・・)が父親か幼い舛花にはわからなかった。 母親はしょっちゅう違う男をアパートに連れ込んでいたからだ。 時に見るなと罵倒され時に見てろと命じられ、男たちと母親はまだ三歳やそこらの舛花の前で性交をした。 舛花には大人がもつれ合うその行為が何なのか全くわからなかったが、男たちの昂ぶった荒い息と母親の出す甘ったるい声は気味が悪いと感じていた。 母親は所謂ネグレクトだった。 暴力こそないものの、母親は舛花にたいしてまともな育児や愛情を与えてくれたことは一度もなかった。 お腹が空いたと言えばコンビニで買ってきたおにぎりやパンを放られ、体調が悪いと訴えれば寝てれば?と冷たくあしらわれるだけ。 乳児健診や保育園どころか、公園にも連れて行ってもらったことがなかった。 そんな母親だが、舛花にとっては唯一の肉親である。 だから逆らおうとか反抗しようとかそんな気持ちは全くなかった。 それどころか、舛花は母親の身を案じていた。 母親は体調が悪く、他のことに構っている余裕がない。 だからイライラして舛花に当たったり、酒に溺れたりしているのだと。 いつかその病気が治ったら、舛花のことをきっと大切にしてくれる。 テレビで観た母親たちのように、優しく笑って愛情をたっぷりと与えてくれる。 そう信じていた。 だがある日を境に母親の虐待は暴力へと変わった。 それは舛花が自分の意思を口にするようになった頃だ。 「みんなみたいに学校に行きたい」 そう呟いた舛花は、次の瞬間思いっきり頬を打たれ床を転がっていた。 舛花はその時初めて母親が恐ろしいと思った。 下から見上げた母親の顔が般若のようだったからだ。 それをきっかけに、母親はまるでタガが外れたように舛花を打ち、足で蹴飛ばすようになった。 理由は些細なことだった。 舛花の目つきが気に入らないとか、反抗的なことを考えているとか。 身に覚えのない理不尽な理由で手を出され続けた。 それでも舛花は耐えた。 耐えて、耐えて、いつか母親が愛情を注いでくれる日を待ち続けたのだ。
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