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舛花にとって淫花廓は天国だった。
微笑むだけで金が舞い込み、強請らなくとも貢ぎ物で部屋が埋め尽くされていく。
だが、気分がいいのもはじめの頃だけだった。
いつまで経っても虚無感が晴れていかない。
心が満たされていく気配がないからだ。
どんなに甘い言葉を囁いても、囁かれても、心はずっと空っぽのまま。
この世に命を授かった瞬間から愛されるものもいれば、全く愛されないものもいる。
自分は間違いなく後者で、きっとそれは一生変わらないのだ。
そんな自暴自棄に陥っている時、升麻と出会った。
初めは目の上のたんこぶのような奴だと思っていた。
舛花から唯一の楽しみを奪う鬱陶しい奴だと。
舛花は自他共に認めるプレイボーイだ。
同業の男娼たちからは「菖蒲に次ぐ見境のない男」として通っている。
だが、不思議な事に升麻の前ではプレイボーイでいられなかった。
本音が漏れ、かっこ悪いところばかり見せてしまう。
しかし、升麻はそんな舛花を笑ったり詰ったり決してしなかった。
それどころか舛花を信じ、病を抱えながらも目的に向かって直向きに努力を重ねたのだ。
そんな升麻は、いつしか目の上のたんこぶから努力家で真っ直ぐで危なっかしくて放っておけない奴に変わり、今では誰にも触れさせたくない大切な人へと変わっている。
ようやく見つけた愛しい人。
満たされないと泣いていた心が、喜びに満ち溢れていくのがわかる。
「好きだ…」
舛花はもう一度呟くと、升麻を引き寄せた。
恥ずかしそうに伏せる目が、キュッと引き結ばれた唇が舛花をたまらない気持ちにさせる。
昂る気持ちを落ち着かせるように一度息を吐くと、薄い唇に自分のそれを重ねた。
その唇は柔らかく、蕩けるように甘い。
これまでしてきたどんなセックスより、胸が高鳴り、狂おしいほどの感情が込み上げてくる。
角度を変えながら執拗に唇を貪っていると、息苦しくなったのか升麻の唇が開いた。
すかさず舌をねじ込むと、升麻の舌を絡めとる。
「ん…っんっ…っ…ふっ…」
辿々しいながらも舛花の口づけに懸命に応えようとする升麻。
そのいじらしい姿にも胸が熱くなり、舛花は更に深く激しく舌を絡めた。
飲み込めなくなった唾液が升麻の顎を伝っていくのを目の端で捉えたその時。
ハッと我に返った舛花は唇を離すと、升麻の華奢な体を押しやった。
いつもの舛花ならとっくに押し倒して、無理やりにでもセックスに持ち込んでいるはずだ。
何百回とやって来たその流れは、もはや身体に染みついた癖と言っても過言ではない。
だが、升麻を前にするとそれが全く働かない。
こんな純粋で美しいものを穢してしまっていいのだろうか。
汚れきってしまっているこの手で摘み取ってしまってもいいのだろうか。
そう思った途端、舛花はまるでブレーキがかかったかのように動けなくなってしまった。
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