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花のうてな 8
風呂場で体を丁寧に洗い、以前舛花に教えてもらったやり方で準備をする。
男を受け入れるための準備だ。
やり方を教えてもらっている時は、こんな面倒な事をわざわざやってまでセックスするなんて…と思っていた。
が、いざ自分が受け入れる側になってみると、めんどくささより興奮の方が勝ることに気づく。
今からここに好きな人を受け入れることができる。
そう思うだけで下腹が疼き、身体が熱くなってくるのだ。
淡白だと思っていた自分にもこんなに性欲があったのか。
疼きと格闘しながらなんとか準備を終わらせると火照る肌に寝間着の浴衣を羽織った。
やや緊張気味にベッドの置いてある部屋へと向かう。
ベッドに腰掛けていた舛花は升麻の気配にすぐに気づいた。
スタンドライトの小さな明かりだけが灯された部屋は見慣れている光景のはずだ。
だがくすんだ青色の着流し姿の男がそこにいるだけで初めて来た場所に思える。
升麻は改めて舛花の姿を見つめた。
首筋に浮かぶ筋の線や、唇の厚さ、視線の流し方にまで目が奪われドキドキとしてしまう。
元々男前なことは知っていたがなぜだがいつもよりもカッコよく見えて、妙に逃げ出したい気持ちになった。
自分から誘っておいてこんなんでどうするんだ。
升麻はバカみたいに高鳴る自分の心臓に叱咤した。
そんなこちらの緊張感を知ってか知らずか、舛花が手招きで呼んでくる。
恐る恐る近づくと、舛花は自分の足の間に升麻を座らせた。
後ろから抱きしめられ、緊張はさらに高まってしまう。
「なんで髪乾かしてこないんだよ」
舛花はそう言うと升麻の湿った髪をわしゃわしゃと撫でてきた。
言葉はいつもと一緒だが、声はいつもより少し低い。
「だ、だって…早くしないと舛花が…」
続きを言ってもいいものかと升麻がもごもごと口籠もっていると、舛花がフッと笑った。
「どっか行っちゃうかと思った?」
升麻は躊躇いながらも小さく頷く。
すると、不意に耳元に吐息がかかった。
くすぐったさに思わず身動ぐと、逃げられないよう肩を押さえつけられる。
「いかねぇよ…いくわけないだろ?」
ウィスパーボイスに鼓膜を揺らされ、薄い布の下で肌が粟立った。
シーツに背中をつけた升麻を舛花が上から見下ろしてくる。
薄いライトの光は舛花の顔に影を落とし、彼の顔の彫りの深さをますます強調させている。
升麻が思わず見惚れていると、舛花の顔がゆっくりと近づいてきた。
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