花のうてな 8

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額に触れる優しい口づけ。 「なるべく優しくする」 掠れた低い声に緊張の糸がわずかに解けた。 舛花になら全てを委ねる事ができる。 そして彼の与える全てを受け入れたい。 生まれて初めて人と繋がりたいと強く思った。 小さく頷いた升麻の顔にキスの雨を降らせながら、舛花はゆっくりと浴衣の腰紐を解く。 節張った長い指が升麻の生肌に触れる感触だけで、恥ずかしさと喜悦が溢れてくるようだ。 「ここ、誰かに触られるの初めて?」 舛花の指が胸の中央に縦に伸びる術痕に触れた。 「うん」 担当の主治医や看護師以外に触られたことのない術痕。 その痛々しい傷痕に母は何度も涙をこぼし、身内の誰もが目を伏せた。 生きるために辛い治療を頑張ったところで結局人を泣かせたり哀れみの眼差しで見られてしまう。 自分は生きていても人を悲しませる存在なのだ。 升麻にとってこの術痕はコンプレックス以外何ものでもなかった。 だが舛花だけは唯一その傷を見ても引いたり哀れんだりはしなかった。 「傷痕なんて誰にでもある」 そう言ってくれたのだ。 弱く脆いと思っていた心臓は、舛花の指先の下で力強く鼓動を刻んでいる。 まるでこの人のために生きていたいと言っているかのように。 「升麻の体、頑張ったんだな」 舛花はそう言うと、ゆっくりと顔を近づけてきた。 胸の真ん中に押し当てられた柔らかい感触に身体がびくりと跳ね上がる。 「ぁっ…っ」 ちゅっ、と音を立てながら吸われ、升麻は思わず出てしまいそうになる声を唇を噛んで耐えた。 舛花の唇が肌に触れるたび、腰の奥からなんともいえない感覚が這い上がってくる。 すると、突然今まで感じたことのない感覚が背筋を駆け抜けた。 見ると舛花の指先が升麻の片方の乳首を摘んでいる。 「やっ…」 カッと顔が焼けつくように熱くなった。 目を見開く升麻の前で、舛花の舌がもう片方の乳首をチロチロと舐め回す。 「や、やだ…っそんなとこ」 小さくて何の機能も果たさない場所のはずなのに、舛花が触れるだけでまるで性器に触れられたかのように身体が勝手に跳ね上がってしまう。 升麻はその何ともいえない感覚からなんとか逃れようと懸命に身を捩った。 「升麻は感度がいいんだな。ビクビクしてかわいい」 「やだ…そんな事言わないで」 「なんでだよ」 「だって…恥ずかしいっ」 「こんなんで恥ずかしがってどうすんだよ。今からもっと恥ずかしいことするのに」 舛花はそう言うと羞恥を訴える升麻の足を片手でひょいと持ち上げた。 あれよあれよという間に下着を剥ぎ取られ、生まれたままの姿にされてしまう。 両足を大きく広げた格好にさせると、舛花はジッと升麻を見つめてきた。
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