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暫くすると、升麻の発作は落ち着いた。
そのまま眠ってしまった升麻の寝顔を見つめながら、舛花は頭の中で考えをめぐらせる。
ミサキインテリアという大手企業の名前がこの場で出たこと。
そして、その名を聞いた升麻が見せた動揺。
間違いない。
升麻はミサキインテリアと深い関係のある人間だ。
楼主はミサキインテリアの新社長が淫花廓との契約を切ると言っていた。
経営者ではない舛花にとって、それがどんな損失や障害を生むのかはわからない。
だが良くない事というのはわかる。
淫花廓とミサキインテリアの縁が深い事は、研修の時に散々聞かされたていたからだ。
この淫花廓独特の非現実的な空間を演出しているのはミサキインテリアの後ろ盾があるからこそ成り立っている。
家具、装飾品、蜂巣の内装、光の演出の仕方、あらゆる場所の隅々までミサキインテリアの力が及んでいるのだ。
しかし、舛花にとってそれ以上に気掛かりなのは升麻の事だった。
もしも、仮に升麻がミサキインテリアの人間で、尚且つ重要な役割を担っているのだとしたらこのまま淫花廓に居続ける事は難しいだろう。
升麻がどういう理由や目的で淫花廓の男娼を目指しているのかはわからない。
だが、何かとてつもなく重いものを背負っているのではないかと危惧してしまう。
青白い顔にかかった髪を掻き上げながら舛花は唇を噛み締めた。
守ると決めたはずなのに、どう守ればいいかわからず焦燥だけが募っていく。
知らなければ守れない。
だが、それを聞いてしまった二人の行く先が閉ざされてしまいそうで怖い。
升麻が男娼としてデビューする事にも抵抗があったが、彼がもしも淫花廓を離れなければいけなくなったら、それこそ舛花にとってはおしまいだ。
ようやく手にした大事なものが、指の間からするするとこぼれてしまいそうな感覚がして舛花は升麻の手を握った。
細い指に指を絡めながら舛花は呟く。
「頼むからどこにも行くなよ」
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