花のうてな 12

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升麻が就任してから規模を縮小した社長室に入ると、来客用のソファーに男が一人、その背後にもう一人男が立っていた。 一人は紅鳶だ。 いつもは着流し姿だが今日はビジネススーツに身を包んでいる。 スーツもネクタイも特に派手な色や柄を使っていないにもかかわらず強烈に目を惹いているのは、元々の素材が良いからだというのが改めてわかった。 もう一人は淫花廓で雑務や警護を担う男衆だった。 黒衣に不気味な面をつけた男衆は、影のように静かに紅鳶の後ろに立っている。 淡い期待に膨らんでいた気持ちが、空気の抜けた風船のように萎んでいく。 もしかしたら舛花もいるかもしれないと思っていたからだ。 そんな事あるはずない。 ()は男娼。 簡単に外に出られる人間ではないのだ。 落胆する気持ちを悟られないよう、升麻はにこりと微笑んでみせた。 「お久しぶりです、紅鳶さん」 「元気そうでよかった。こうやって見るとあそこで研修を受けてた見習いと同一人物とは思えないな」 升麻の姿をまじまじと見つめながら紅鳶が感心したように呟く。 「いえ、僕なんてまだまだです。相手にもしてもらえない事の方が多くて…」 思わず零れてしまう本音。 だがすぐに我に返ると謝った。 「あ、すみません。それで、本日はどういったご用件でこちらに?」 「ああ、楼主から言付けとこれを預かってきた」 紅鳶の目配せを合図に男衆がテーブルに何かを置く。 一見するとファイルのようなそれを見つめながら升麻は首を傾げた。 「なんですか?」 「見てみろ」 顎で指され、升麻はファイルを手に取ると開いた。 ずらりと並んだ名前と企業名。 それは淫花廓の顧客名簿のようなものだった。 日付けにと指名した男娼の名前も書いてある。 暫く目を通していた升麻はふとあることに気づいた。 よく見ると最近升麻が足を運んでいる企業の名前ばかりが並んでいる。 その中にはついさっき渋い顔で対応された西レの社長の名前もあった。 「これ…」 驚いた升麻は顔をあげる。 すると紅鳶はまるでそれがわかっていたかのように微笑むと告げてきた。 「”好きに使え”楼主からの伝言だ」 「好きにって…こんな…僕なんかに渡していい情報じゃ…」
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