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馬を無断で馬小屋から拝借し、イザード家の屋敷へ急ぐ。
道中俺のせいで人が怪我をしようと、モノが破壊されようと、ましてや人や動物が死のうとどうでもよかった。
倫理観すら忘れるほど、俺の心には余裕がなかった。
それほど「シャロンが死ぬ」ということは、俺にとってとてつもなく大きなことだったのだ。
イザード家の屋敷まで着くと、何故か大きな門が開いていたので馬に乗ってそのままの勢いで侵入し、玄関の手前で馬を乗り捨てて、扉を勢いよく開けながらシャロンの安置場所を探した。
屋敷の使用人達は驚いて必死に俺を止めようと追いかけてくる。
罵倒を浴びせられてもいいのに、走ると危ないだの、殿下のせいじゃないだの言ってくる。
シャロンに似てお人好しなのだろう。
いい使用人を持っていたものだ。
シャロンの遺体が安置されていたのは、シャロンの部屋だった。
扉を開けた瞬間、あまりの血の匂いと腐乱臭に身動きが取れなくなってしまった。
シャロンはこんな匂いじゃない、甘くて爽やかな、本能的にいい匂いだと感じる香りだった。
遺体の状態は酷く、刃物で切りつけられたと思われる傷が無数に存在し、そこから固まった血が覗いている。
腐敗が進んでいるのも明確で、状態が酷いからか、ここに運ばれてくるまでにかなり進行してしまっていた。
意を決して1歩ずつシャロンに近づいて行く。
どんな状態でも俺が世界で1番愛するシャロンなのだから、最期ぐらいしっかりそばにになければ。
隣は誰にも譲りたくない。
「シャロン、ごめん。」
返事なんて返ってこないが、彼女の手を取り、指を絡める。
恥ずかしくてなかなか出来ないけど、最期は恥ずかしいとか言ってられない。
ゆっくりと懐に隠していた短剣を、背後の使用人達に気づかれないようシャロンの手に持たせ、最期の言葉を紡いぐ。
「愛してる。」
短剣を持たせた方の手首を俺の首元に引き寄せ、動脈と喉を切り裂いた。
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