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城壁内の騎士団の馬小屋に向かい、馬車でシャロンの屋敷まで送って欲しいと伝えると、朝倒れていたことを知っているのか慌てた様子で用意してくれた。
乗る時にブランケットや紙袋まで渡されて、確実に病人だと思われているようだった。
「殿下、出発します。横になっていても大丈夫ですよ。」
「…あー、うん。」
彼らの好意を無下にしたくなくて、本当のことは言えなかった。
まあ、だからといって元気かと聞かれたらそうでもなく、倦怠感は拭えないのだが。
いっそ彼らの言葉に甘えて、シャロンの屋敷に到着するまで寝てしまおうか。
彼女に格好悪いところは見せたくないし、馬車に酔ったら余計な心配をかけるかもしれない。
そう思ってブランケットを抱きかかえ、目を閉じた。
目を閉じると周りの音が大きくなったように感じる。
王城内は、騎士や使用人たちの話し声と彼らの足音に衣擦れの音、王城の裏手の通用門の開く音。
外は、王城の裏とはいえそれなりの賑わいを見せる城下町の人の声、生活音、道路は石畳に覆われているためよく響くようになった馬の足音。
まだ午前10時を回ったところだろうからそこまで人は多く無いようだったし、飲食店などの呼び込みの声は聞こえなかった。
代わりに昼過ぎにはあまりない、焼き立てのパンの香りや、ベビーカーが必要なくらい幼い子供とお散歩する母親の声を聴くことができた。
普段昼過ぎからしか外出しない俺にとって珍しい光景であったし、明日から場所は違えどもう少し早い時間帯の街を見ることができるという事実に冒険心がくすぐられた。
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