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#1 悪夢〜Albtraum〜
目の前には膝から崩れ落ちたと思われる、美しいドレスに身を包んだ銀髪の女性が項垂れている。
白銀と金と緑で構成されたその女性は、顔は見えなくても愛おしく、どこか見覚えがあった。
しかし、そう思うと同時にどうしようもない怒りが込み上げてくる。
奥歯を噛み締めているせいか、頭が痛い。
ギリギリと痛みが増していく度に、目の前の女性に対する愛憎も強くなるばかりだった。
「エフィ様!この悪女にハッキリ言ってあげてくださいませ!」
王族の愛称を軽率に呼ぶ無礼な声を目で辿ると、思いの外近くにあって自らの腕にまとわりついていた。
知らない女が上目遣いで瞳を潤ませ、俺に訴えている。
俺の隣を彼女以外に許した覚えはない。
こんな黒髪に茶色の目を持った、間違っても俺の恋人(だと思う人)を悪女などとほざく女など知らない。
そんな心情とは裏腹に己の口は正反対の言葉を紡いだ。
「シャロン、アイビーの言う通りだ。君には失望した。君との婚約は破棄する。深く反省するがいい!」
体も自由は利かず、勝手にアイビーと呼んだ女の抱き寄せ、あろうことか額に口付けした。
抱き寄せた瞬間、薔薇の甘ったるい香水が香り、嫌な気分になる。
女は幸せそうな表情に変わり、うっとりと抱きついてくる。
更に増した俺にとってはキツい香水の香りに、今度は軽く眩暈を覚えた。
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