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「あのぉ~すいません?オレの奥さんに何かご用ですか?」
恐る恐る目を開けると、先ほどのチャラい男が目の前で壁ドンされている。
「樹くん!?」
汐里をかばうような体勢で目の前に立っている樹の姿を見た途端、汐里の目にはじわっと涙が浮かんだ。
「ひえっ!?ええっ?結婚してたの?!」
男は樹に睨みをきかされて震え上がっている。
そして二人の左手の薬指に光る指輪を確認し、後ずさりして遠くへ走り去ってしまった。
その後ろ姿を見送ったあと、今度は樹が汐里の方へ身体を向けた。
「だから、待ち合わせなんてしないで一緒に家から来れば良かったのに!あのナンパ野郎!」
ムスッとした表情を向けられ、汐里はしゅんとして俯いた。
だが次の瞬間顔を上げて嬉しそうに笑った。
「でも、樹くんが守ってくれたもん!」
「……オレがいつもタイミング良く来れるとは限らないんだからな」
少し照れたように顔をそむけて樹は言った。
「大丈夫だった?」
「うん!ありがとう!」
汐里の笑顔を見ていると、トゲトゲしていた気持ちが丸くなってくる。
それにしても、今日は何だかいつもと違う気がする。
毎日会っているのに、キラキラ度が増して見えるのは一体何なのだろう。
髪に付けられた花の飾りだろうか、それとも。
樹が汐里を見つめて考えていると、汐里が今度は照れたような表情に変わったことに気が付いた。
それにつられて自分も照れてしまう。
結婚して一ヶ月。同棲していた期間を含めると半年ほど。
ここ最近、デートする時は同じ家から一緒に出てくるのが定番になっていたため、久しぶりに待ち合わせをしてみたいという汐里の提案だった。
それというのも、数日前に彼女の会社の先輩である山村の話を聞いたことに始まる。
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