ヤキモチと青い月

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ヤキモチと青い月

「十一時十五分、ちょっと早く着き過ぎちゃった」 腕時計から視線を外し、顔を上げて前を見る。 久しぶりの待ち合わせに汐里は胸を高鳴らせていた。 横浜駅の交番前で樹の姿を探す。 だが、約束の時間は十一時三十分。 気持ちが焦って早めに来てしまい、汐里は少しその場を離れることにした。 今日初めて着るワンピース。髪には可愛いお花の飾り。 そして、咲子からもらったオススメのスキンケアをした肌。 『これ!汐里に絶対使って欲しい!』 『なあに、これ?』 『フェイススクラブ!何と、一万円のやつだよ!』 咲子の手に載せられていた小さな金色の袋。 メイクの専門学校に通う咲子はデパートでバイトをしており、汐里に色んな化粧品のサンプルをくれるのだ。 『えっ!?い、イチマンエン!?』 『そう!つるつるになるし、肌のトーンがグッと上がるよ!?デートの前の日に使ったらいいと思う!』 そんなわけで昨日の夜はお風呂でそのフェイススクラブで丁寧に顔を洗い、全身のお肌にも気を配ってケアしてきたのだった。 (樹くん、早く会いたいなぁ……) ドキドキする鼓動を感じながら腕時計を確認していると、すぐ近くで声が聞こえた。 「すみません、ちょっといいですか?」 顔を上げると、目の前には見知らぬ若い男が立っている。 へらっとした笑い方が印象的だ。 「え?あ、はい」 「あの~、この辺りで美味しいお菓子を買えるお店知ってます?」 汐里は不思議そうな顔をした。 それなら、目の前にデパートがあるのだからまずはそこへ行けば良いのに。 どうしてそんなことを尋ねてくるのだろう。 「デパ地下にお店がたくさんありますよ?」 「あ、そっか~。そうですよねぇ。言われてみればそうだった~」 男はますますヘラヘラ笑いを汐里に向けてきた。 「教えてもらって助かりました。というわけでお礼がしたいんで、お茶でも行きません?おごりますよ~」 「え?いえ、あの、そんな、私これから約束がありますし」 「なんで?僕お姉さんとお茶したいなぁ~。ちょっとだけいいでしょ~?」 (何なの!?怖い!樹くん……!!) 交番の近くにいれば良かったと汐里は心底後悔した。 右手を握られ恐怖で固まったまま目をギュッと閉じていると、何かガシッと衝撃を感じる音が聞こえた。
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