ヤキモチと青い月

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樹に手を引かれるままに歩いていくと、黒猫の看板の掛かった店の前で立ち止まった。 大人な雰囲気がそこかしこから漂っている。 「このお店は?」 汐里が尋ねた。 「ここ?バーだよ。オレの行きつけの」 「えっ?バー?樹くんの行きつけ?」 樹の勤めている店と似てはいるが、少し違う。 言っている間に重い扉が開けられ、樹は汐里の手を引いて中に入った。 「いらっしゃいませ」 緊張とともに店の中へ進んでいくと、一人の男性がにっこり微笑んで立っていた。 年は四十代半ばぐらいの渋めのイケメンだ。 「こんばんは、長谷川さん」 「青島さん、こんばんは。お久しぶりですね。おや、お可愛らしい方もご一緒で」 包み込むような優しい目をしたその男性は、長谷川というらしい。 「オレ、結婚したんですよ。今日はご報告も兼ねて」 「そうなんですか!それはおめでとうございます」 「はは、ありがとうございます。こちら妻の汐里です」 汐里は樹の後ろに寄り添っていたが、急に彼に話を振られてパッと背筋を伸ばした。 樹の口から「妻」と言われ、胸の奥がハートでいっぱいになってしまう気分である。 「は、はいっ!あ、あ、青島汐里と申します!よろしくお願いします!」 緊張とともに汐里が挨拶をすると、長谷川はますます優しい目をして微笑んだ。 「長谷川と申します。この店のオーナーをしております。よろしくお願いいたします」 深々とお辞儀をし終えると、長谷川がカウンター席に案内してくれた。 樹の出してくれた手に支えられて汐里は少し高い椅子に腰掛けた。 二人並んで座り、改めて長谷川と向かい合った。
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