かぐや姫は、傷つかない

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マンションの重いドアを開けると、朝出かける時には無かった暗闇が、静かにマリコの帰りを待っていたかのように、そこにあった。 ひとつ、ため息をつく。 「なんか、食欲ない。」 独り言を呟いて、コンビニで買ったクリームパンと甘いミルクティーのペットボトルを、テーブルに置いた。 「どうして、あたしの好きな人には、いつも彼女がいるのよ。」 密かに思いを寄せていたタクミに、彼女が出来たという事実を、同僚から聞いたばかりだった。 ああ、あたしを愛してくれる人なんて、もう絶対無理だ。 あたしは、誰にも愛されていない。 そんなことを、考えるでもなしに、考えている。 あたしの周りを見回してもさ、あたしのことを愛してやろうなんて、そんなことを考えてくれる人はいないよ。 というかさ、愛してやろうとか、そんなんじゃないんだよね。 こうさ、もう、あたしを見ただけで、胸をキュンとしてくれる、そんな自然な愛が欲しいのよ。 でもさ、どう見たって、そんな人いないよ。 会社の人にもいないし、学生時代の友達にもいないし、通勤の同じ電車に乗り合わせている何十人の乗客の中にもいないし、、、。 いない。 いない。 いない。 それだけじゃなくて、この市にもいないし、この県にもいないし、この国にもいない。 あたしを愛してくれる人が、この日本という国に住む無数の男性を考えたって、いる気がしないよ。 もう、誰にも愛されずに死んでいくのかな、あたし。 でもさ、他のみんなは、誰かに愛されてるのかな。 サユリは、、、あの子は、可愛いからね、まあ、愛されるかな。 トモコは、顔は普通だけど、愛されキャラなんだよね。 羨ましいよ。 それから、、、うん、なんか、自分で自分が情けなくなっちゃうから、考えるのやめよ。 それにしてもさ、最近のクリームパンって、旨過ぎじゃね。 このクリームの濃厚で、かつ上品な甘さは、コンビニのパンだって思えないよ。 でも、ご飯も食べずに、菓子パン食ってて大丈夫なのかな。 まあ、今日だけは、いいことにしよ。 だって、食欲ないんだもん。 ヤケクソだから、強いお酒でも飲んでやろうか。 ♪♪ タンカレージンを飲み干して、タンカレージンを飲み干して ♪♪ 「ジャジャジャ、ジャン」って、何あたし手踊りしてるんだろう。 バカだよ。 タクミにフラレて、家でクリームパン食って、上島みゆきさんの曲で踊ってるって、バカだね、あたし。 そんな時に、玄関のチャイムが鳴った。 誰だろう、こんな時間にと思って、マリコは、ドアを開けた。 「姫。お迎えに参りました。」 そう言ったのは、50才位の黒のスーツを着た男性で、その後ろに、黒のワンピースを着た地味な40才ぐらいの女性が立っていた。 「あのう、どなたでしょうか。」 マリコは、ビックリして、それだけ答えた。 男性は、女性の方を、ちょっと振り返って、お互いに目配せをして、また男性が言った。 「失礼しました。突然の事で驚かれたでしょう。少し説明が必要でございますね。こんな時間に、あれなんですが、ちょっとお時間いただけますでしょうか。」 すると、後の女性が、済まなさそうに、「すいません。ちょっと、あれなんですが、お時間をください。」と言った。 するとすぐに、「本当に、あれなんですが。」と、また、男性が念を押すように言う。 「はあ。まだ、あたし、何のことか分からなくて、、、どうしたらいいのかな。それに、今は、あれだし。」 と、咄嗟に、「あれ」を付け加えて答えられたことが、マリコは、少しだけ嬉しかった。 しかし、どういうことなんだろう。 こんな時間に、訪ねて来て、しかも、知らない人よ。 それで、お時間を下さいって言われてもね。 「あのう。本当に、あたしを訪ねてこられたんですよね。」 「ええ、マリコさまですよね。あなたにお伝えしたいことがあって、やってきたのです。」 目的があたしなら、話を聞くぐらいはいいか。 それに、悪い人じゃなさそうだし。 ということで、マリコは、ふたりを部屋にあげた。 「実は、今日は、姫をお迎えに来たのです。」 「少し待ってください。姫って、あたしのことですか。」 「ええ、姫は、何も聞いてらっしゃらないのですか。まあ、そうかもしれません。あなたの育ての親は、あなたを普通の女の子として育てたいと考えてらっしゃったみたいですからね。」 「って、どういうことなんですか。」 「あなたは、実は、あの月のお姫様なんです。」男性が言うと、女性が、無言で天井を指さして、空の月だというように、妙な笑顔を見せて頷いた。 「あの、月のお姫様。」 「そうです。あなたさまは、第23世のかぐや姫であらせられます。ははーっ。」と、急に大袈裟にお辞儀をした。 「いえいえ、あたしには、静岡に両親がいるんですよ。あたしの親ですよ。普通の人間ですよ。」 「それが違うんですよ。あなたの育ての親は、ある朝、玄関に段ボール箱が置かれているのを発見するんです。そして、その中に、目にも麗しい女の赤ちゃんがいたのです。それが、姫、あなたなんです。そして、育ての親は、それを隠して、今まで育ててこられたのです。でも、もうそろそろ、月へ帰らねばなりません。で、私たちが、姫をお迎えに来たっちゅー訳なんですよ。」 「かぐや姫だったら、竹から生まれてくるんじゃないの。」 「ええ、昔は、竹から生まれてくるように、私どもが竹に細工をしていたのです。でも、最近は、竹は、そこいらじゅうに生えているものでもなくなりましたし。竹があるのは田舎だし。なので、姫の時から、竹はやめて、段ボール箱に変えたんですよ。」 「いや、ショックやわ。何がショックって、段ボール箱に捨てられてたのが、ショックやわ。」 「いえ、捨てられていたのではありません。私どもが、段ボール箱に細工をして、そこに姫を、そっと置いたのでございます。まあ、それはそれは、可愛かったですよ、姫は。バブーとか言って。それがあまりにも可愛かったので、ほっぺたを、チョンチョンって、指で押さえたら、キッとわたしを睨みつけたんでありますよ。あれは、赤ちゃんと思えないほど、怖かったでございます。さすが、姫ですね。」 「いえ、そんなエピソードは、聞きたくないわ。でも、本当なの、その話。」 「本当です。なので、これから一緒に、月に帰りましょう。」 「でも、今すぐにって言われても。というかさ、もう帰ることになってるけど、あたしは、まだ決めてないわよ。だって、そんな話信じられないでしょ。」 「無理もございません。では、少しお時間を差し上げましょう。そうですね、1週間後に、また参ります。その時までに、決心あそばされますように。」 「あなたたちは、今から月に戻るのね。」 「いえ、わたしどもは、出張で来ておりますので、駅前のビジネスホテルに予約を入れております。」 そう言うと、男性は、携帯電話を取り出して、誰かと話をしている。 「はい。すいません。説得はしたんですが、まだ帰る気はないと。はあ。勿論ですとも、私どもは、ここに残って、姫の説得を続けます。はい。きっと月に連れてもどりますので。」 「今のは?」 「月の殿でございます。あなたのお父様でございますよ。」 マリコは、どうも2人の話を、半信半疑で聞いていた。 「まあ、いいわ。今日は、もう遅いし。それじゃ、1週間後ね。」 「はい。1週間後に、またご連絡いたします。」 そう言って、2人は、立ち上がって、ドアの方に行きかけたら、パサリと何かが落ちる音がした。 マリコが拾うと、それはディズニーランドのパンフレットだ。 「あ、あなたたち、1週間後って言って、それにあたしが納得しないとか何とか、殿に電話して、結局は、1週間、遊んで帰るつもりなのね。」 あわてて、男性が、「いえ、これは、ええ、なに、人間についての勉強でございます。折角の地球の出張ですから、まあ、あれみたいなもんですわ。」 すると、後の女性が、「ええ、あれみたいなもんなんです。」と付け加えた。 2人の訪問客が帰った後に、マリコは、今までの話が、果たして、本当なのかと少し楽しく思う気持ちと、そんな話がある訳ないと、冷静に分析をしようとする気持ちが、ただ、漫然とマリコの頭の中に、2つそのままの状態で存在していた。 ねえ、あたしって、お姫様なのよ。 しかも、あのかぐや姫なのよ。 どうよ、世間の男ども。 あたしに、貢物を持って、「お嫁さんになってくださーい。」なんて、甘い声を出して、言い寄って来なさいよ。 もう、かぐや姫なんだから、選び放題ってことよね。 タクミも言うかもね。 「今の彼女とは分かれるから、お願い。マリコさん、あなたが好きです。」なんてね。 あははは。 でも、それって、どうなのかな。 あたしがさ、そんな、かぐや姫じゃなくて、ただのあたしでさ、何も無いあたしでさ、今のこのあたしでさ、それでいて、タクミが、あたしの事を好きですって言ってくれたなら、それは、嬉しいけどさ。 かぐや姫だから、好きって言われるのって、嬉しいけど、ちょっと寂しいよ。 マリコは、不思議な気分で、ただ、ボンヤリとベッドに横になったら、いつしか寝ていた。 それからの1週間は、ただ、いつものように会社に行って、帰ってくることの繰り返しで、いつもと変わりない日が続いた。 そして、1週間後。 「姫。決心がおつきになりましたか。」 「おつきになりましたかって、どうして、待ち合わせが居酒屋なの。」 「はあ。実は、わたし、この居酒屋なるものが、非常に気に入りまして。だいたい、夜は、居酒屋か、中華料理屋で餃子を頂いております。」 「月には、居酒屋ないの?」 「ええ、居酒屋に似たものはございますが、こんな楽しい光景は見られません。ほら、あの20歳ぐらいのご婦人をご覧くださいませ。何やら彼氏に、別の女性がいたそうで、それで、友達とやけ酒を飲んでいるのでございますよ。時に涙などを頬に落として、時に、口をへの字にして、見てると面白うございますね。」 「いやいや、彼氏に別の女って、そりゃ、荒れるでしょ。月にもあるでしょ。男が他の女を作ったりさ。泣いたり、笑ったり。」 「いえ、ございません。」 「じゃ、感情って言うのは無い訳?というか、生きていたら、いろいろ、悩んだり、思うようにいかなかったり、そんな壁に出くわすでしょ。そんなときに、泣いたりするでしょ。」 「いえ、月では、思うようにいかないということは存在しないのでございます。特に、姫は、パワーをお持ちなので、どんな願いでも叶ってしまいます。」 「うそ。ほんとに?じゃ、あたしが月にいったら、なんでも夢がかなう訳なの。」 「ええ、叶いますとも。たとえば、私どもが姫のお宅にお邪魔した時も、何やら好きな人に、別の女性がいたとかで、ションボリしておられましたね。」 「いやいや、なんで、それを知ってるの。」 「はい。ドアの前から、なかの姫の様子を窺ってました。思わず、ププッと笑ってしまいました。あ、失礼。姫も、楽しい世界においでなのだなと。」 「そんな、人のことをドアの外から、観察するなんて、それはしちゃダメでしょ。」 「はい。今後、気を付けますです。例えば、姫は、彼氏が出来ないことを悩んでおられると思いますが、これなんて、月に行けば、瞬時に解決する話でございます。そうですね。姫は、どんな殿方をお好みでございますか。芸能人で言うと誰ですか。」 「芸能人で言うとって、あなた、本当に月から来た人なの。まあ、いいわ。そうね。例えば、歌手の木村ジャーニさんとか。」 「では、月に行ったら、木村ジャーニさんが欲しいと思ってください。そうすれば、すぐに目の前に木村ジャーニさんが、現れますよ。」 「うそ。そんなことが出来るの、月では。でも、いくら、ジャーニさんが、現れても、あたしを愛してくれる保証は無いし。」 「ちょっと、待ってください。ジャーニさんが欲しいのではないのですか。」 「ジャーニさんが、欲しいけど、ジャーニさんに愛してもらえることが欲しいのよ。」 「愛してもらえる、、、それって、重要な事なのですか。」 「それが1番重要でしょ。愛してもらえるってことは、奇蹟に近いのよ。誰だって、誰かに愛されたいの。だから、それが叶わない時は、居酒屋で、やけ酒飲んで、忘れるのよ。あの向こうのテーブルの女の子だって、愛されたいと思っても、それが叶わないから、泣いているのよ。」 「でも、その愛も、叶うかもしれません。いえ、きっと叶うでしょう。ジャーニさんが出現したら、『愛あれ。』と思ってください。そしたら、きっと愛が出現するはずです。 「本当に。本当に、あたしが、愛してもらえるの?」 「本当です。」 マリコは、男性の言う、本当に愛してもらえるという言葉が、ぐるぐると頭の中を高速で回りだした。 「じゃ、あたし、月に行きます。」酔った勢いもあって、そこで即答した。 ジャーニさんが、目の前に現れて、こんなあたしを愛してくれる。 もし、それが本当なら、夢が叶うじゃない。 「じゃ、早速、月に行きましょう。」 男性と後ろの女性が、店を出たら、スポーツカーが1台置かれていた。 「さあ、これが飛行船です。」 「何か見たことあるわね。そうだ、これ映画のバックトゥザフューチャーに出てくる車じゃない。」 「ええ、わたし、駅前のビジネスホテルに泊まっておりましたでございましょ。その時に、部屋のビデオで、映画を見まして、すっかり、気に入ってしまったんです。なので、特注で作らせたんです。」 「すごいね。そのお金、どこから出てくるの。」 「いや、それはちょっと、、、。あれなもんですから。」男性が、気まずそうにペコリと頭を下げた。 後ろの女性も、「あれですから。」とぺこりとやった。 3人が、車に乗り込むと、一瞬、ふわりと浮き上がったと思ったら、次の瞬間には、別の場所に移動したみたいだった。 「姫。着きましたよ。ここが月です。」 マリコは、車から降りると、周りを見渡した。 そこは、得も言われぬ日本の春夏秋冬を合わせたような気候で、春のような穏やかな陽気さもあり、夏のウキウキする暑さもあり、秋のスッキリとした風も吹いていて、冬の凛とした身の引き締まる感じもする。 そこにシンデレラ城のようなお城があって、気が付いたら、マリコは、そのバルコニーに立っている。 「すごいところね。うわあ。これが月なの。」 「ええ、正確に言うと、月の中です。月の表面にお城を立てちゃうと、地球の人間に見つかっちゃうから、あえて、月の中の空間に住んでいるのでございます。」 「月って、空洞だったんだ。すごいね。」 マリコは、ただただ、周りの状況に驚いていた。 すると、男性が、言った。 「では、早速、お試しになられては、どうですか。」 「何を。」 「木村ジャーニさんでございます。」 「ああ、そうだったわ。じゃ、願えば叶うのね。『木村ジャーニさんが欲しい。』」 すると、その瞬間、マリコの前に、実物と同じジャーニさんが現れた。 「木村、、、ジャーニです。」 ちょっと低音気味の声が、マリコをキュンとさせた。 「あ、あたし、マリコと言います。」 「マリコさん。僕と付き合ってください。」 「きゃ。どうしよう。どうしよう。」 それを見て、男性は、「宜しゅうございましたね。これで月に帰って来た甲斐があったというものです。」 でも、しばらくすると、少し変なことに気が付く。 ジャーニさんは、ただ、そこにいるだけなのだ。 マリコの、エスコートや、世話をしてくれるけれども、ただ、そこにいてマリ子を見ているだけだ。 「ねえ、やっぱり、ジャーニさんは、あたしを愛してくれてはいないわ。」 「それじゃ、愛を試してみてはいかがですか。」 「そうね。じゃ、『木村ジャーニさんの愛が欲しい。』」 そう願うと、急にジャーニさんの目がウルウルと涙目になる。 「マリコさん。好きだ。好きなんだ。」 マリコは、天にも昇る気持ちであった。 あたし、初めて男性に愛してもらったよ。 これが幸せなのね。 しかも、愛してくれてるのが、ジャーニさんなんだもの。 チョー幸せ。 「宜しゅうございましたね。愛も叶いましたね。」 でも、しばらくすると、ジャーニさんは、ただ、マリコを愛しているだけであることに気が付いた。 いや、ただ、愛してると言葉だけで言っている訳じゃない。 本当に、マリコのことを愛してくれてはいるのである。 ジャーニさんの愛は、本当の愛だった。 それは、マリコに何かがあったときに、自分を犠牲にしてでも、マリコを助けようとする愛であったのである。 それは、純粋に愛というものだろう。 マリコは、それに気が付いた時に、茫然とした。 愛って言うのは、こんなにも詰まらないものだったのかと。 愛してもらっても、いや、愛されているのは、本当に嬉しい。 でも、そんな襟を正した愛は、窮屈だと思ってしまったのだ。 「そうじゃないの。こう、あたしを見て、キュンと胸を締め付けられるような気持ちになって欲しいのよ。」 「それでは、それをお試しになってみては。」 「木村ジャーニさんが、あたしを見て、キュンとなれ。」 そういったら、急に、ジャーニさんが、おどおどとした態度に変わった。 「ああ、僕でいいのか。マリコの相手は、僕でいいんだろうか。でも、自信がないよ。でも、マリコが好きだ。ああ、マリコに嫌われたくない。マリコ、僕の事を嫌いにならないでくれ。ああ、神様。マリコが欲しい。」 その姿を見て、マリコは、ようやく、本当の愛を手に入れたと思った。 マリコの事を、ジャーニさんは、手に入れたいと思い悩んでくれている。 それを、考えると、どうにも幸せな気持ちだ。 「ああ、あたし、月に来て良かった。あたしでも、誰かに愛してもらえたよ。しかも、それが、あたしの好きなジャーニさんなのよ。」 マリコと、ジャーニさんは、お互いに抱き合って、幸せを感じていた。 すると、ジャーニさんは、言った。 この幸せを、みんなにも分けてあげたいね。 そうよね。 愛を分けてあげよう。 マリコは、最高の幸せを感じながら、「月の住人に胸キュンあれ。」と叫んだ。 すると、月のあっちこっちで、バタバタと走り出す男と女。 向こうでは、泣きわめき、こっちでは、男性同士が殴り合い。 「カズコは、俺の女だ。」 「フミオは、あなたには渡さないわ。」 相手を罵り、相手を傷つける言葉が聞こえてくる。 マリコは、その時に思った。 マリコが愛だと思っていたのは、ただの欲だったのではないかと。 マリコが、欲しかったのは、相手を思いやる愛ではなくて、マリコを、束縛し、苦しめ、そして、捨てようとする欲だったのかもしれない。 でも、そう思ったら、急に地球が恋しくなった。 欲だらけの地球も、また面白いかもしれないねと。 「ねえ、あなた(木村ジャーニさんのことだ)、一緒に地球に帰りましょうよ。」 「ああ、君の言うとおりにするよ。」 「姫。それなら、わたしどもも、一緒に連れて行ってくださいまし。」 「ええ、いいわよ。一緒に行きましょう。」 マリコとジャーニさんと、そして男性と女性の付き人と、車に乗り込んだ。 ふわりと車が浮き上がる。 「それにしても、愛と言うものは、奇妙なものですなあ。」 男性が、そういった瞬間に、4人は、地球にいた。 「しかし、これから、どうなさいます。」 「ええ、お金の心配はいらないわ。あたし、月を出る時に、『1億円あれ。』って叫んだの。車のトランクに入っているわ。 「さすが姫。抜かりはありませんな。これでしばらくは遊んでくらせますね。」 「ホント、姫も、あれでございますね。」と女性が言った。 でも、ちょっと月が心配になって、天体望遠鏡を買って来て、月を見てみた。 すると、月の表面に、月の住人がウジャウジャいて、あっちこっちで、泣いたりわめいたりしている。 「愛とは、悲しいものですな。」また、男性が言った。 しかし、この風景って、全世界の天体家が見ているよね。 明日のテレビのモーニングショウが楽しみだと、マリコはニヤリと笑った。
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