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マーミンが和田家にやってきたのはきっかり5時であった。
「こんにちは」
「まあああ、先生。わざわざすみません」と母が出て行ったのがわかる。母はマーミンとあまり年は違わないのだろう。
根っからの島人であけぴろげな性格だ。ぼくは自分の部屋で開いていた参考書を閉じて、電気を消す。
居間にしている和室に入ると、うやうやしく通されたマーミンは半そでのポロシャツの上にカーディガンを羽織っている。都会の香りがささいなことに感じられるものだ。
ぼくの会釈にマーミンが手をあげて香水の香りがした。
「先生、リクヤがいつもお世話になっています」すでに座ってたお父さんは今日はアロエの畑の仕事を少し早く切り上げ、シャワーを浴びている。首筋に汗をかいていた。緊張しているのかな。
ぼくはすこし迷ったが座卓の端っこに座った。
「お忙しいところ、お時間を割いていただき、恐縮です」マーミンは再度頭を下げる。顔も化粧してきたみたいで、ますますムーミンみたいな目になっている。ぼくは下を向いて笑った。
「いえいえ、先生も大変ですよね。今日は車ですよね。もしあれだったら、ビールでも」
お母さんはそう持ち掛ける。ぼくの家は山の中腹にあるわけだし、車で来たのは知っているのだ。車以外だと子供たちが通る山道を通るしかない。しかし、従兄弟島では飲酒運転は、なぜか大目にみられるし、警察もないし、みんな夕方のビールはお茶替わりなのだ。のどかな島なのだ。
「いえ、本日は大切なお話しですし、麦茶でけっこうです」
「はあ、そうですか」
お母さんは誰よりもお父さんに飲ましてあげたかったのかも。
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