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第二節 白雪姫とお后様
「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは、だぁれ?」
これは、占いみたいなものだ。どんな占いにも劣る、結果の分かっている問い。けれど、いつも心のどこかでは、その結果が外れることを期待していた。
「それは、お后様でございます。あなたが一番、美しい」
「そう」
壁の鏡には、面白くない顔で身だしなみを整えている、白い髪の女が映っている。景気付けに、そいつに何か一言でも言ってやろうかと思ったとき、控えめなノックが鳴った。
「はい、どうぞ」
「失礼いたします」
振り向いた先、可憐な顔には、赤い唇。白い肌に、黒い髪。もうすぐ十七になる少女は、まさに花の盛りと言えた。
「白雪じゃない」
「おはようございます、お継母様」
「もうっ、お継母様はやめてって言ったじゃない。同い年なんだから」
「ふふっ、ごめんね、アトネ」
茶目っ気に笑った白雪は、当然のようにわたしの隣に腰掛けた。
「で? 何しに来たの?」
「暇だったから、つい。朝ごはんまで、まだ時間があるんだもの」
「まあ、落ち着きのないお姫様ね」
「ふふっ、そうなんだ」
鏡には、対象的な髪色をした二人の少女が、仲良さげに映っていた。
「この鏡ってすごいよね。なんでも答えてくれるんでしょう?」
「そうよ。鏡の言葉は、真実の言葉。鏡はすべてを知っているの」
「ねぇ、ちょっと遊んでみてもいい?」
「別に、いいけれど。もともとわたしの物でもないし」
そうだ。この鏡は、先代のお后様の物。つまり、この子の母親の物だった。
「じゃあ。鏡よ、鏡、鏡さん。お父様が、国民からどれくらい慕われているのか、教えてくださる?」
鏡は答えた。
「国王様は、国民の八割から慕われております、姫様。この支持率は、他国と比べて、非常に高い数値であると言えるでしょう」
「まあ! さすがお父様ね」
「……」
「鏡の言葉は、真実の言葉。何一つ、間違いなんかないんでしょう? お父様は、本当に民から慕われる、素敵な方なんだ……。嬉しい」
気付けば、シーツの端を固く握り締めていた。
「アトネ? どうしたの?」
「え?」
「あ、分かった。今、アトネが何を考えているのか」
心臓が、どくりと鳴った。
「わたしたちの、誕生日のことでしょう?」
「……」
「……」
「……驚いた。当たりよ」
「やったっ」
白雪は、小さく拳を作った。
「もう来月でしょう? ああ、すごく楽しみ!」
「ええ。そのプレゼント交換のことを、考えていたの」
「なになに? あ、でも、私から欲しいものを聞き出しては駄目だからね。こういうのは、サプライズが大事なんだから」
「分かってる。ねぇ白雪。少し考えているんだけど、プレゼントは、物じゃなくても大丈夫? それとも、何か、形に残るものの方がいいかしら」
「物じゃない……えっと、思い出のようなもの、ってこと?」
「ええ」
白雪は、ぱぁっと表情を輝かせた。
「わぁ……。ううん、とっても素敵。私は、どちらでも嬉しいな」
コンコンコンと、ノックの音が響いた。どうやら朝食が運ばれてきたようだ。
「さ、あなたも部屋に戻りなさい」
「はーい、お継母様」
「もうっ、白雪っ!」
「ふ、ふふっ」
わたしたちの誕生日は、偶然、同じ日だ。
そういうことに、なっている。
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