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「鈴木様、お帰りなさいませ。大変なご無礼を致しまして、申し訳ありませんでした。この度はお許し頂き、誠に有難う御座います」
タクシーでお帰りになった、鈴木様御夫妻を玄関前のロータリーにて出迎える。
挨拶以外は何も言わずに深々とお辞儀をするように指導され、支配人の隣に居るように命じられた。
「まぁ、出迎えまでして頂いて、こちらが恐縮しちゃうわね」
黒塗りのタクシーから降りた奥様が、支配人と私に向けて、ニッコリと優しく微笑む。
「それにしても、真壁支配人。いいのかい、本当にスイートを使わせてもらって?」
後からタクシーを降りた旦那様が困り顔で支配人に尋ねる。
「えぇ、私共のミスで起きた事ですので遠慮なく、お使い下さいませ。こちらこそ、図々しくもスイートルームに移動して欲しいとのお願いをお聞き頂けて嬉しい限りで御座います」
「顔を上げて下さいな、真壁支配人と……。あら?この可愛い子は新人さんかしら?」
支配人は御夫妻にお許しを頂くまで頭を上げようとしなかったので、私も同様に頭を下げていた。お許しが出て、頭を上げた時、奥様の視線は私に集中した。
「はい、三月から入社致しました篠宮です。宜しくお願い致します!」
「元気があって本当に可愛らしいわね、頑張ってね」
「ほう……、若いのに綺麗なお辞儀が出来るとは、流石、一流ホテルですな。私は篠宮さんが一瞬で気に入りましたぞ」
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