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「起きてんだろう?」
シャワーの音がする。
竹沢さんが風呂に入りに行ってから、しばらくした後、伊香が唐突に言った。
「利口だよ、お前さん達は。見てどうにもならない事は見ないフリ、が一番だ。俺もあいつもそうしておきゃあ、こんな事にはならなかったんだから」
もそり、と衣擦れの音がしたが俺達は動かなかった。狸寝入りは最後までやり通すべきだ、バレてようがなんだろうが、シラを通せばなんとかなる。
く、くくく、と伊香が笑った。哀れだよな、と呟き、どうしようもねえ奴だよアレは、と言った。
「なにもかも、俺があいつの人生をパアにした事を恨むどころか、それを恋慕だと思っていやがる、俺も今の所…居座る気だよ」
もそり、もそり、伊香は近づく。遂に俺の耳元に吐息が触れるまで。
そして、俺の顔に飛び散った精を奴はベロンと舐めって、
お前さん達も美味い魚になったらいつでも相手をしてやろう。そうしたら養ってくれよ。
そう囁いて、笑った。
……世の中には知ると危うい事実もある訳で。
弱い魚は非礼勿視、非礼勿聴、非礼勿動がモットーだ。三猿ならぬ三魚、それが一番賢いやり方、磯巾着が魚を食っても俺達ゃ知らぬ振りして遊泳している、何もできないのなら、何もしない方がいい、所詮俺達ゃサンマとイワシなんだから。
そうだろ、相棒。
ところで俺は明日ここを出て行こうと思う。
きっと相棒も、同じ事を思っている筈だ。
【磯巾着、出世魚を食らう】
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