許しの美学

184/184
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/560ページ
倉田はまた電車に乗って会社に行く。駅前で一箱5000千円以上もする有名銘菓を二箱買った。 「こんにちは、これ皆さんでどうぞ」 倉田は会社に入門する時、受付である守衛にその菓子折りを出した。 「倉田さんこんにちは。え〜、こんな高いお菓子を頂けるのですか?」 安月給で知られる守衛が目を剥いた。 「いやいつもお世話になっていますから。なにちょっと競馬で儲かったからですよ」 「いや〜こんな高級な物を頂いても本当によろしいのでしょうか?」 一個100円のお菓子とは全然違うのだ。 倉田でも食べたことがない高級菓子だ。 「倉田さん、お土産まで貰って誠に恐縮ですがお名前をご記入願います」 受付表に氏名を書けという。 あ、そう。いいよと倉田は言ったが、どうしてだろう。前回は顔パスじゃなかったかと苦笑いを浮かべた。 「実は最近、会社の商品を黙って持ち出しした人がいましてね。それで入退出時も厳しくなっております」 思いがけない土産を貰った守衛が申し訳なさそうに言った。 「ほう、そんなことがあったの?」 守衛が何故か小声になる。 「派遣社員の一人がまだ発売前の新製品を黙って盗み、それをネットで売りに出していたのですよ。当然、そいつは解雇されましたけどね」 「へ〜、そんなことしてたの?」 倉田もびっくりである。
/560ページ

最初のコメントを投稿しよう!