黒いほころび

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会社には生命保険のおばちゃんがよく勧誘に来るのだが、顔見知りのその保険レディースが清水にこう言った。 清水さんはどうも団体生活には向いてないようね。どう?脱サラする気ある? 清水は保険のおばちゃんに時々、会社の愚痴も話したりしていた。 「貸し店舗?」 そんなに高い家賃じゃないし、大型冷蔵庫や椅子等の備品も前の店主がそのまま置いてるから無料で使ってもいいのよ、と上手い話だった。 但し、店自体はかなり狭いわよ、とおばちゃんは歯茎を見せて笑った。 これなら改装費にもそれほど金をかけなくても済みそうだった。 清水は退職金を計算してみる。 勤続10年では大した額ではないが、サラリーマンより自分で店を構えるということは大いに魅力的であった。
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