許しの美学

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だが、格別に激しい言い争いにまでは発展せずに、この口論は約1時間で何とか収まった。 倉田も妻の千代子も年甲斐もなくちょっと熱くなったと表現したほうがいいのか。 でも、さすがに少々のわだかまりは生じた。 その証拠に数日間はお互いの口数も減少していた。 しばらくしてある日、妻がパートに出た後に倉田がリビングのテーブルを見ると封筒が置いてあった。 妻のメモ書きが記されてあり、それには先日はごめんなさい。私もつい意地を張りましたと書かれており、このお金はあなたの好きなように使って下さいとあり、あの15万円が入っていた。 「何だ……」 結局、妻が折れた形になっている。 だったら最初からあなたも長年大変苦労してよく働いてくれたのだからと、そりゃあ内緒にしていた俺も悪いが、そこは大人の対応で黙認していてくれたら良かったのじゃないかと倉田はむっつりした。
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