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1-3 木々の茂っている方に少し歩いた先に、粗末な馬車とテント、そして焚き火には鍋がかけてあるのが見えた。てっきり屋内で休めると思ったのに、焚き火の前の地面にどっかりと腰をおろすロベルナを見てがっかりした。仕方がないので、火を挟んで向かいに座る。 「おら、たんと食え」 手渡されたのは池で取ったと思われる魚の串焼きとスープの椀だ。魚にかぶりつく。塩がかかっていないのが物足りないが、身がふわふわの白身魚だ。意味もわからず砂漠を歩かされた身体にはものすごい御馳走に思えた。悔しいので絶対に本人には言わないが。 「ねえ、あのさ。東京までどうやって帰ればいいかわかる?」 「はん? なんだって?」 「東京。う〜ん、と。信じるか分からないんだけどさ、私いつの間にか砂漠に立ってて、帰りたいんだけど何にも分からなくて困ってるんだ」 ホシオトの言葉を聞いてロベルナは合点がいったようにああ、と急に面倒くさそうな生返事をした。 「お前、迷い人か」 「迷い人? ま、まあ迷子といえばそうかもだけど」 「なんだ、こんなとこに一人でいるから、てっきり賢者かと思ったのに」 「賢者?」 「あー、理解したわ。お前この世界のことなんにも知らないっていうただの人間だろ? 話に聞いたことはあったが、本当にあるんだな。初めて見た、異世界人」 「い、異世界人……? 私が?」 「そうだよ。そうか、もしかして魔法すらないような貧相な世界から来たのか? さっき俺が魔法学校生だって言ったら驚いてたしな」 「え、なにそれ。ちょっと笑えないんだけど。ここが異世界? そういうのいいから。もう、その付け耳も気持ち悪いから外してよ! 私真面目に困ってるんだからね!」 ホシオトは、尚も自分の謎世界の設定をしゃべり続けるおかしな男に耐えられず、ふざけているとしか思えない付け耳を引っ張った。
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